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扼殺のロンド  (ねこ3.7匹)

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小島正樹著。原書房ミステリー・リーグ。

その事故車は工場の壁にぶつかってたわみ、ドアが開かなくなっていた。中には男女。女は腹を裂かれ、男は無傷のまま、死んでいた。直前にすれ違ったドライバーはふたりとも生きていたと証言、さらに男の驚くべき死因が判明して捜査は混迷を深めた。しかし事件は終わらない。第二、第三の事件が追い打ちをかける―新世代トリックメーカーが放つ渾身の一撃。 (あらすじ引用)


3作目の小島作品。
”本格としては○だがイライラする”がすっかり代名詞になってしまった小島氏だが、本書はそのレッテルを剥がせるいい機会になったようだ。

まず、文章が驚くほど平易に読みやすくなっている。詰め込みすぎでバランスの悪かった構成力もぐっと改善され、すっきりとまとまった印象。臓器を奪われた死体、アトリエでの密室死体、浮遊する手首など
ネタは多いのにごちゃごちゃ感がない。前回は伏線があからさますぎるのが玉に瑕だったが、今回はそれにさらにひとひねり加える事によって弱点を回避している。トリックの自由さやキャラクターの好感度を意識しておられる所も、作者の島田荘司氏に対する敬愛が窺える。


が。これで完璧になったとは思えないこの居心地悪さはなんだ。言葉遣いの古さを時代設定で調整するあたり確信犯なのかはわからないが、中途半端に刑事の人物造形を掘り下げてみたり探偵のキャラを奔放にしてみたりとまだ手探り状態を行きつ戻りつしている印象がある。テクニック的に上達すると共に、第1作で放っていたパワーを置き去りにしてはいないか。


(328P/読書所要時間3:00)