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五声のリチェルカーレ  (ねこ3.8匹)

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深水黎一郎著。創元推理文庫

昆虫好きの、おとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは黙して語らない。家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。無差別殺人の告白なのか、それとも―。少年の回想と森本の調査に秘められた“真相”は、最後まで誰にも見破れない。技巧を尽くした表題作に、短編「シンリガクの実験」を併録した、文庫オリジナル作品。 (裏表紙引用)


最近(一部の)ミステリ仲間で人気上昇中の深水さん。
講談社ノベルスの作家さんから抜けられないのかと思っていたが、このたび東京創元社より新刊が出ると聞いた。単行本かと早とちりしていたが、文庫書き下ろしだという。個人的には美術系でない深水さんに興味があったので、楽しみにしていた。短編集かと思ってしばらく積んでいたのだが、よっこらせと読み始めると長編+短編一編だと判明。わーい^^。


そして読み始めてすぐにこれは良い!と思った。バッハや昆虫の薀蓄が混ぜられているので深水さんらしさは健在だが、勝手に「深水さんが貫井徳郎に化けたー!」と思った。少年犯罪を扱ったもので、主人公は家裁調査官の森本。昆虫博士と呼ばれた少年が、なぜ、誰を殺したのか?そしてその動機は?を、少年の回想と共に明らかにしていくミステリである。小学生から引越しを重ね、行く先々でいじめを受けていた少年。新たに転校して来た中学ではなぜいじめに遭わなかったのだろうか。森本の真摯な姿勢と少年の心理の奥が描かれている。そしてラストでまさかのトリックが炸裂する。地味ではあるが、見事な着地だ。
難を言えば、森本の存在がそれほど意義あるものではなかったこと。仕掛けが主体と言われればそれまでだが、もっとページ数があれば深みのある問題提起になったのではないか。

そして短編の「シンリガクの実験」。
もし小手先で描いたとすれば立派な出来である。現代の少年少女の心理に主眼をあてたところも、長編とのテーマがぶれていなくて良い。


薄い作品なので、これぐらいなら十分満足。数をこなせば知名度も上がるだろうし、つつましく応援を続けて行こうと思う。

(277P/読書所要時間2:00)