ギルバート・アデア著。創元推理文庫。
事故で眼球を失った大作家ポールは、世間と隔絶した生活を送っていた。ある日彼は自伝執筆のため、口述筆記の助手として青年ジョンを雇い入れる。執筆は順調に進むが、ささいなきっかけからポールは恐怖を覚え始める。ジョンの言葉を通して知る世界の姿は、果たして真実なのか?何かがおかしい…。彼の正体は?そしてやって来る驚愕の結末。会話と独白のみの異色ミステリ。 (裏表紙引用)
評判も前知識も誰かの紹介も何も関係なく、雰囲気だけで気になって買った本。自分の経験から、いわゆるジャケ買いというのは当たりやすい。そして失敗しても当たる対象がないから気楽とも言える。
そういうわけで、読了。
今回も自分の天性のカンに敬意を表したい。約300ページ中9割が会話文、1割が作家の独白という極めて風変わりな作品であった。方向性はサスペンスだが一種のホラーに近い緊迫感と恐怖があり、スラスラドキドキと読める。なんせ、登場人物紹介一覧が
ポール……………盲目の大作家
ジョン・ライダー…………その助手
これだけである(笑)。名前の遊び心にも注目されたし。
厳密には家政婦さんやポールの友人なども登場するのだが、概ねこの二人が物語を進行させる。
とにかく盲目であることの不安や恐怖が見事に描かれた作品である。ジョンが形容したポールの姿形にもぞっとするが、これもまた読者にとっては”見えない”事による恐怖だ。対してジョンへの恐怖とは、見えないその内面であろう。誠実そうな言動から、どのようなたくらみ、陰謀が潜んでいるのか。
失くなったネクタイやジグソー・パズルの絵柄など、徐々に徐々に不信感が生まれてゆくこのスリル。
ラストは少々気が滅入ったが、スッとする結末であることは疑いがない。テクニック的には雑だと言われているようだが、雰囲気が勝つ小説もあるのだ。どこまでも果てしなく綱渡りをしているような、心の目を酷使する作品だった。繰り返して読みたい、これは好みすぎる。
(299P/読書所要時間2:00)