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春を嫌いになった理由(わけ)  (ねこ3.6匹)

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誉田哲也著。光文社文庫

フリーターの秋川瑞希は、テレビプロデューサーの叔母から、霊能力者・エステラの通訳兼世話役を押しつけられる。嫌々ながら向かったロケ現場。エステラの透視通り、廃ビルから男性のミイラ化した死体が発見された!ヤラセ?それとも…。さらに、生放送中のスタジオに殺人犯がやって来るとの透視が!?読み始めたら止まらない、迫真のホラー・ミステリー。 (裏表紙引用)


懲りずにまた誉田さんを読んだ。
本書はホラー・ミステリーなどと謳っているが、サスペンスである。文体が軽妙でキャラクターが現代風、それでいてグロ描写にも筆がのっている。前半迫り来る暴力と排泄の世界に眩暈をおぼえ、主人公瑞希の”勉強は出来るけどバカ”な口の利きように呆れかえり、本体648円+税というお金の使い道をひたすら後悔したのであった。

が、そこは誉田さん。やはり面白いのでやめられないのである。
霊媒師ネタでテレビ収録といういかにも今風の題材に、中国人密航者がどのように絡んでくるのか?二つの交互に進行する章のあまりのギャップに踊らされる。
瑞希は英語とポルトガル語を習得しているがためにプロデューサーの叔母に通訳を命じられる。過去のトラウマで霊媒師というものに強い反発を持っている瑞希。来日した霊媒師・エステラとの交流は、瑞希の心を解かすのか。発見された死体は、テレビ局あるいはエステラによる工作なのか。
密航者兄妹は、日本の地で成功するのか。凱旋を夢見てがむしゃらに働く兄と美しい妹。妹が入管に摘発されてから、兄妹の運命は大きく狂い始めるーー。

霊を盲目的に信じるキャラクターを主人公にするよりは良かったと思う。瑞希の態度は頑な過ぎるが、読者が誰を頼って読めばいいかとなったらこの中では彼女しか有り得ないだろう。
密航者の兄は、妹に恋をしているかのような描写が多く見られる。どうもそのあたりが受け入れ難かった。

ラストにすべての謎が解かれ、人間関係の混乱もまとまりがつく。しかし、作風のせいか題材の割に火曜サスペンス調で終わってしまったのが予想通りというか残念だ。兄妹の関係、エステラの存在、色々と処理が甘いように思う。どうでもいいが青春ものと間違えそうなタイトルも何とかして欲しいし。

まあ、でも「月光」よりはこちらを推すかな。ここまで来たら「疾風ガール」も読んでやるー。

(381P/読書所要時間3:00)