すべてが猫になる

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V.T.R.  (ねこ3.9匹)

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辻村深月著。講談社ノベルス


怠惰な生活を送るティーのもとに、三年前に別れた恋人、極上の美女アールからかかってきた一本の電話。「アタシの酷い噂話や嘘をたくさん聞くことになると思う。ティーにだけは知っておいて欲しいと思って。アタシは変わっていない」街に出たティーが友人たちから聞くアールの姿は、まるで別人のように痛々しく、荒んだものだった―。彼女が自らを貶め、危険を恐れずに求めたものとは…。 (裏表紙引用)


あの辻村さんがノベルスに帰って来た!!!
しかも、「スロウハイツの神様」に登場した小説家・チヨダ・コーキ作品として!これ、ファンの人は買わなきゃ損するよ。感動の両面カバー、裏面を見た時の興奮はとてもじゃないけど言葉じゃ言い表せない。まさか、あのチヨダ・コーキの作品が読めるなんて、手に取る事が出来るなんて・・・(><)。是非本棚には裏面を表紙にして飾りたーーい!!


・・・というわけで、内容も満足満足。
舞台は日本ではないみたい。主人公は”ティー”と呼ばれる政府容認の殺し屋。国内で1000人しか持つ事の出来ない「マーダー・ライセンス」。一般非公開の悪人リストを渡されたマーダー達には殺人が認められている。しかも、リストにない人間を殺しても罪には問われないという。
ティー”は完全なる女のヒモで、”アール”という同じくマーダーの女性とは別れている。が、ある日突然アールからかかって来た電話をきっかけに、気持ちが揺れ動く。

歪だが、魅力的な空想世界。
”A””S””J”などのアルファベットで呼ばれるバーテンダー心理療法士など、キャラクターの背景や造形なども生き生きと描かれ躍動感ある物語。特に印象深かったのがエデンと呼ばれるロボット廃棄場でのエピソード。アールとの思い出や噂話など、ティーの葛藤が伺え、アールの人としての考え方や価値観がひしひしと伝わって来るのだ。

そして何より、辻村さんらしいサプライズが小爆発したのが大きな喜び。ああ、そういうことだったのか。真実がわかって正しい構図が見え始めてからの、ティーの存在の大きさに感動した。どことなく切ない、運命が定められた彼らの歩む道。人の愛し方も、仕事へのプライドも、ティーが全てを乗り越えるために持ち去ってしまった。ファン必読の良作である。

                             (179P/読書所要時間2:00)