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我らが影の声/Voice of Our Shadow  (ねこ3.9匹)

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ジョナサン・キャロル著。創元推理文庫

兄が死んだのは、ぼくが十三のときだった。線路を渡ろうとして転び、第三軌条に触れて感電死したのだ。いや、それは嘘、ほんとはぼくが…。ぼくは今、ウィーンで作家活動をしている。映画狂のすてきな夫婦とも知り合い、毎日が楽しくてしかたない。兄のことも遠い昔の話になった。それなのに―。キャロルの作品中、最も恐ろしい結末。待ちに待たれた長編第二作がついに登場。 (裏表紙引用)


絶版で入手困難だった本書を遂に捕獲。久しぶりのジョナサン・キャロルを堪能した。

登場人物は6人という、極めて人口密度の低い作品。しかもその内の2人は物語中死者となる。
第一部は、主人公ジョゼフの幼少期。
悪童である兄と、チンピラ予備軍のボビーにさんざん苛められた、内向的でコンプレックスの塊だった少年の思い出話だ。兄に○○をしている所を見られたジョゼフ。その日に兄の運命が決まった。筋にあるので書いても構わないだろうが、弟がいまいましい兄を感電死させるという衝撃的な内容だ。

第二部は、ウィーンへ飛び悠々自適の生活を始めたジョセフが、テイト夫妻と出会い親友となってからの物語。第一部が異様だったので恋愛模様一辺倒となった第二部にはガッカリしたが、ここまで来てまだキャロルの本性をわかっていなかった。。まともだったはずの、親友だったはずの男が狂って行く様子が目に見えておぞましい。

第三部は、ニューヨークへ逃亡したジョセフの新たな春。インディアが秋なら、キャレンは春。インディアと全く違うタイプの女性に心奪われたジョセフが最後に選んだ道は。。。

なんだかこういう風に書いて行くと恋愛小説のようだが(間違ってはいないが)、要は作家となったジョセフ自身の物語である。彼は本当はどんな人間なのか?幼少期の自分と現在の自分は別人だという考え方に感銘を受けるシーンがある事からも、彼が必死に兄らの亡霊から逃れたがっていた事がわかる。しかし、そうは都合良く行かない。自分勝手に人を拒絶し、気分によって人を愛すジョセフに、この結末はお似合いではないか。しかし、一度ホッとさせて後ろからワッと驚かせる手法があまりに単純すぎて、これぐらいならすれっからしの読者はびくともしないだろう。

                             (281P/読書所要時間2:30)