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タイムアウト/Time Out  (ねこ3.8匹)

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デイヴィッド・イーリイ著。河出文庫

異色作家イーリイがブラックユーモアに満ちた筆致で日常の裏側を描き出す、奇想と幻想の名短篇集。さえない老教授が巻き込まれた驚天動地の機密計画とは…傑作「タイムアウト」をはじめ、MWA賞受賞作「ヨットクラブ」、自分は神だと信じる男「G.O’D.の栄光」他、全15篇。 (裏表紙引用)


翻訳ファンなら必ずご存知の、晶文社ミステリというものがある。多分自分はA・H・カーしか読んだ事はないが、このあたりも押さえようと昨年から計画していた。このたび初めましての栄誉に授かったデイヴィッド・イーリイの『タイムアウト』は、その晶文社ミステリ版『ヨットクラブ』を改題したもの。先月その『ヨットクラブ』を借りたはいいものの読めず返却してしまったところへ、めでたくも文庫化である。補足すると、このイーリイはアメリカの作家。これまた皆さんご存知のハヤカワ書房ロングセラー、『異色作家短篇集』シリーズ補完計画というものがあるらしく(嬉)、イーリイは最有力候補だという。

15編もあるので、気に入ったものをご紹介。

『理想の学校』
息子を模範的な学校へ入学させるため、校内見学と契約に訪れた父親のお話。
まるで軍隊のように規律でがんじがらめになった生徒達。校長の誇らしげな自慢顔と、父親の後ろめたさが読者の好奇心をそそる。徐々にそういう予感をこちらに持たせつつ、これまた強烈なオチだ。

『面接』
ジョージは昇進の為に会社の面接を自宅で受ける事になった。しかし会社が面接官として送り込んだのは経験不足で無作法な若造で。。。
ジョージが狂って行く過程が衝撃的。穏やかで冷静な序盤から、徐々に徐々に盛り上がって行く狂気のリズムが凄い。読んでいるこちらが息切れしそうだ。

『カウントダウン』
二十数カ国の科学者が集結しての、壮大なロケット有人飛行計画。トラブルを懸念していた保安係のファーカーは、船長と物理学者の妻の関係を疑い始めるが。。
オチの正体がはっきり描かれていないので読者の想像力、読解力が試される作品。普通に考えて猛烈に怖い。

タイムアウト
実は、『ヨットクラブ』というタイトルを気に入っていたのでこの改題にはふてくされていた。が、読み終わった今、こちらを表題作にしてくれて良かったと単純に思う。イギリスが原子力事故で消滅してしまい、その再建計画に参加させられた老教授の物語である。建物を、歴史を、芸術を、消滅しなければ有り得たはずのイギリスを再建する事に、1人の男が論理的に反駁しようというのだ。
少し小難しいところもあるが、頭脳戦を堪能出来た。

『隣人たち』
サッター館へひっそりと引っ越して来た夫婦。隣人たちは善意で色々世話を焼こうとするが、居るはずの赤ん坊の姿を見た者は誰もいない。。。
人間のお節介は、いつでも狂気への起爆剤になるってことかな。怖かったぁ。

『G.O’Dの栄光』
自分を神だと信じる男は、人々の共感を得ようと新聞広告を載せた。「自分を神だと信じる方、詳細を聞きたし」。。そして男の私書箱、家は反響の手紙で溢れかえり。。。
わはははは^^;現代の人間をかなり大袈裟にだけど皮肉って風刺にしてあるのかな。

『大佐の災難』
大佐の隣人の青年の言い分はこうだった。「お宅の牧草地の囲いが壊れていて、牛が我が家に入ってくる」穏やかで常識的な隣人同士の付き合いをモットーとする大佐は気持ち良い対応をしてくれたが、その後大佐の口から語られた驚愕の話とは。。。
ぎょえー^^;;た、大佐~~~~^^;;

『オルガン弾き』
教会で取り替えることになったオルガン。新しく設置されたオルガンは、カードを入れると勝手に素晴らしい演奏を始めるという画期的なものだった。。
オルガン弾き・ドクター・アルファの混乱っぷりが面白い。弾いているフリがばれたら大変だし、自分で演奏したいし。。しかしとんでもない事になったね^^;


以上。
挙げた作品以外がつまらなかったわけではないが、概ね自分の好みはこのあたり。『ヨットクラブ』に期待していたのだけど、オチにそれほど衝撃を受けなかった。むしろあの結末に至るまでが面白かったな。ジャンルは特定できず。だいたいがSF、ホラー、文学寄りかな。だからって万人向けではない。
ヘン好きな人は読むべし。

                             (387P/読書所要時間3:00)