すべてが猫になる

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ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。  (ねこ3.5匹)

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辻村深月著。講談社

“30歳”という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった二人の女性。都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた。あの“殺人事件”が起こるまでは…。辻村深月が29歳の“いま”だからこそ描く、感動の長編書き下ろし作品。 (あらすじ引用)


ウ~ン。。。。(ーー)
辻村さんは昔から好きで、全ての作品を読んでいるが、単行本作家にシフトしてからなんだか好みとハズれて来てるような気がする。。キャラクターの年齢が上がって行っているので、本来なら逆でなければならないのだが。過去の辻村作品から発散される微妙で的確な感情のリアルが、最近は「女性なら誰にでも理解できるリアル」にチェンジし、安っぽくなってしまった気が。スタンダードな恋愛小説、青春小説を読まないのでこれは想像になるが、こういう女性同士の軋轢や嫉妬、裏の感情というものを上手に描いた作品なら辻村さんじゃなくてもありそう。。。

地方の女性のモチベーションの低さ、都会の女性の驕り。就職は腰掛けで、人生のゴールは結婚と出産である前者と、男性と同位置に立ち仕事をこなし、出世や転職、スキルアップと恋愛を天秤にかける後者。元々の根本が違う彼女達がお互い相容れられるはずはない。女性というのはたしかに交際に関して計算がある。相手を「可愛い」と褒める事によって、自分の「いい人」という立場をキープするのが女性。愚かな恋に溺れている友人にアドバイスを与えないのが女性。友人が自分よりレベルの高い彼氏を捕まえるのが我慢ならないのが女性。友人の失恋を慰めながらどこかホッとしているのが女性。女性は
笑顔と愛想、世渡りを共存させて良好な関係を保ち続けていくものだ。
しかし、この物語のように、思っている事をズバズバ指摘していてはどうか。
高校生ならまだしも、30代の大人が、結婚式に呼ばなかったから絶交だの母娘が仲が良すぎて気持ち悪いだの、ずけずけと言い合うのはリアルだろうか?

そしてなぜ、主人公・みずほは世界の違ってしまったチエミにここまで親身になるのか?
どう読んでも、この二人に共通する話題や趣味、価値観などはなく、友人関係として成立するとは思えないのだ。
しかし、それでもわかる。女性というのは、その腹黒さこそが絆なのだ。天使のように純粋な、人の悪口や仕事の愚痴なんて言った事ありませんなんていう人の鑑のような女性と友人になりたい人がいるだろうか。この子も自分と同じような汚い部分を持っているという実感こそが親近感であり、そのバランスがぶれていない女性が「イタくない女性」なのだ。

まあ、それはそれとして、一気に読ませる力量は年々上がっていっているのは凄い。今回は余計なリンクや仕掛けもなかったし、タイトルの着地だけが見事。完全に女性向きの物語なので男性にはお薦め出来ないが、女性の気持ちがわかったつもりになれるぐらいの吸引力はあると思う。

                             (387P/読書所要時間3:30)