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黒衣の花嫁/The Bride Wore Black  (ねこ4匹)

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コーネル・ウールリッチ著。ハヤカワ文庫。

ジュリーと呼ばれた女は、見送りの友人にシカゴへ行くといいながら、途中で列車をおりてニューヨークに舞い戻った。そして、ホテルに着くと自分の持物からイニシャルをすべて消していった。ジュリーはこの世から姿を消し、新しい女が生まれたのだ……やがて、彼女はつぎつぎと五人の男の花嫁になったーー結婚式も挙げぬうちに喪服に身を包む冷酷な殺人鬼、黒衣の花嫁に。巨匠ウールリッチの黒のシリーズ劈頭を飾る名作。(裏表紙引用)


言わずと知れたウイリアムアイリッシュの別名義、コーネル・ウールリッチに初挑戦。でもこっちが本名なんだそう。「幻の女」で物凄い力量を見せつけてくれた作家ですが、やはりこの作品も凄かった。悪女シリーズなのかな?未読の「喪服のランデブー」もかなり酷似した内容だそうですが。どうして名義を変えてるのかな?と思うぐらい作風に違いを感じなかったのですが、まだ2冊目なので黙っておきましょう。

さて、引用したあらすじなのですが。これ、かなり内容と錯誤があるように思います。
自分が書くとすれば、ある謎の女が、一見何の関係もない五人の男のところへ現われては殺害し、姿をくらまして行く。女には彼らを憎む隠された動機があった・・・てなところでしょうか。このあらすじじゃ、次々と一人の女が男達と結婚しまくったみたいじゃないですか^^;レトリックなんでしょうけど、彼女に複雑な事情があるのは見て取れる事で、「冷酷な殺人鬼」という表現をするぐらいならこの言葉こそ内容を深読みして繕って欲しかった。

ま、まあいいや^^;感想ね~。

構成が巧みで目が離せない物語でございました。
つい目の先の展開は容易に読めるのに、女の正体や真意、どのような結末を迎えるのかが全く読めないのはうまい。どんなミッシングリンクがあるのか?復讐はどこで断ち切られるのか?下手をすればマンネリになってしまう連続殺人も、第三章から徐々に展開に変化を見せ、警察や既に登場した人物と絡めて劇的な結果を招いて行きます。その端々で、冷酷と見えた女の「目的以外の犯罪はしない」というポリシーがちらほら見えるのがまた良いのです。たとえ復讐でも殺人を犯している時点で「優しさ」とは
言えませんが、「悲しさ」がほの見える描写は見事。悪人なのに、読者が待ち望むのは彼女の逮捕ではなく改悛であったり、目覚めてしまった悪意であったり、もっと何かドラマ的なもの。
そして、何より劇的な結果でエンディングを迎えるのではなく、さらにどんでん返しのショックが用意されている点が素晴らしいと言えるでしょう。ここまでの真実を用意しなければ彼女の人間性を量るのは難しいですから、作者がこちらの結末を選んだのであれば最良のものでしょう。


いや~、褒めた褒めた^^;
面白すぎるウールリッチ。また読破したい作家が増えましたな。その前に積んであるアイリッシュの短編を^^;

                             (317P/読書所要時間3:00)