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心のなかの冷たい何か  (ねこ2.6匹)

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若竹七海著。創元推理文庫

失業中のわたしこと若竹七海が旅先で知り合った一ノ瀬妙子。強烈な印象を残した彼女は、不意に電話をよこしてクリスマス・イヴの約束を取りつけたかと思うと、間もなく自殺を図り、植物状態になっているという。悲報に接した折も折、当の妙子から鬼気迫る『手記』が届いた。これは何なのか、彼女の身に何が起こったというのだろう?真相を求めて、体当たりの探偵行が始まる。 (裏表紙引用)


「ぼくのミステリな日常」で活躍した”若竹七海”シリーズ。前回編集者だった七海が今作では失業中となっており、雰囲気の違いを感じさせる。本書は第一部、第二部、さらに『手記』という構成になっており、第一部でいきなり仕掛けをかます若竹さんの意地の悪さは健在で嬉しくなる。
しかし、全体的なミステリとしての出来は”損ない”と言っても的を外れてはいないと思う。第一部でやりたかった事(この部分はどうしてもココでやりたかったのだろう)と、それ以降の纏まりのバランスが悪く、若竹さんらしくない。人間関係に収拾がつかなくなり、本来成功するはずだった「人間の心の中の冷たい何か」を表した”動機”の部分がしっくり訴えかけなくなっている。

それはさておいても、今回の”若竹七海”は一体どうしたことか。
言葉使い(心のつぶやき含む)が男性的で汚く、性格の悪さを隠しもしない。腹が立てば他人に手を出し、相手を傷つける。全体的に登場人物を見ても、殴り合いが異常に多いのには辟易した。自分の意に沿わない言葉を言われて他人をこんなに簡単にぱんぱん叩く人間が集まるわけないだろう。誰でも心の中に冷たい何かを持っている、という真理に反対はしないが、自分が若竹さんに求めているもの、共感するものはもっとデリケートな何かである。誰かに対する殺意や犯罪的なそれを、心のどこかで応援しているというような、自分より幸せな”美人”へのコンプレックスを腹の中で飼うような、そんな不特定多数の選ばれた人間を、まるで私達すべて共通の感情のように描かれている事に嫌悪した。

そもそも一度しか会っていない妙子の為にこんなに骨身を削るという姿がらしくないのではないか。妙子の人生を追う事によって、”何か”を追求しようとした姿勢は汲み取れるものの、最後まで意義のあるものには感じられなかったように思う。元々何かがあったわけじゃないこの主人公の未来はあくまでも平坦だ。それなら読む意義だって感じない。せめて、作者を想起せずにいられないこの名前での登場は控えて欲しかったな。

                             (351P/読書所要時間3:00)