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退出ゲーム  (ねこ3.9匹)

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初野晴著。角川書店

穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみで同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励むチカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、校内の難事件に次々と遭遇するはめに?。化学部から盗まれた劇薬の行方を追う「結晶泥棒」、六面全部が白いルービックキューブの謎に迫る「クロスキューブ」、演劇部と吹奏学部の即興劇対決「退出ゲーム」など、高校生ならではの謎と解決が冴える、爽やかな青春ミステリの決定版。(裏表紙引用)


初野さん4冊目。既出のもので、最後に読んだこの作品はかなりの軽いタッチで描かれた青春ミステリ。正直かなり戸惑いました。彼ら高校生の会話のおかしさやテンポの良さは「1/2の騎士」のプロローグに通じるものがあり、嫌いではありません。が、ファンタジー要素がなく、連作短編集の体裁を通して青春のきらめきや苦悩を描いた清々しい本書は今までのような好みど真ん中、とは言えなかったと思います。 何がと言って、やはりメインキャラクターの軽さと対照的な、サブキャラの人生背景の重さのバランスの悪さがいけない。笑っていいのか、考え込んで下を向けばいいのか。苦しみを乗り越えた先の。。。という前向きさとは別のところにあるこの笑いの違和感がいかにも現代風で、自分には思い当たるフシがあまりない。
特に、シリアスなシーンで「自分の友情は生ハムのように薄い」といったギャグを挟む女生徒の感覚がわからないし、いち高校生がたった一年で経験するにはあまりにも重厚すぎるテーマが多いんじゃないかな。

しかし、面白さは変わりません。「クロスキューブ」で見せた鮮やかな解説とその演出は感動的過ぎるし、日本推理作家協会賞候補作となった表題作は「ガラスの仮面」を彷彿とさせる演劇のエチュードをうまく使い、日常の謎ばかりかあるキャラクターの背負った人生、境遇そのものに真実を突きつける深い作品。続編を希望するかどうかは微妙なところですが、草壁先生の芝居がかったポーズや台詞が妙に気になるので出たら勇んで読むとは思います。