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算盤が恋を語る話  (ねこ3.8匹)

造船会社に事務員として勤めるS子の上司・Tは密かにS子に想いを寄せていた。だが、Tは女性に対して内気過ぎる性格の為なかなか想いを告げられない。そんなある日、ふとS子の机にある算盤を目にしたTは妙案を思いついたのだが。。(短編)

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初期乱歩の佳作の一つ。「日記帳」に続く暗号もので、特にこちらはファンに好評を博したのではないか。自分自身、暗号ものは嫌いだけどこの作品は「my乱歩傑作選」があれば入れてみたいと思うくらいのお気に入り。怪奇要素の排除された平凡な暗号推理ではあるものの、優れた悲恋ストーリーだと自分は把握している。幸の薄そうな冴えない主人公の哀愁、それだけはやはり乱歩で、味のあるくだけた小話に仕上がっていると思う。暗号自体はここの造船会社員ならではのものなので、推理を楽しもうとする向きには合わないかもしれないが。乱歩としては自信のほどはどうだろう。


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春陽文庫江戸川乱歩文庫』第4巻「D坂の殺人事件」収録。
創元推理文庫『乱歩傑作選』第11巻「算盤が恋を語る話」収録。
光文社文庫江戸川乱歩全集』第1巻「屋根裏の散歩者」収録。