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水の時計  (ねこ4匹)

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初野晴著。角川書店

医学的には脳死と診断されながら、月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を話すことのできる少女・葉月。生きることも死ぬこともできない、残酷すぎる運命に囚われた葉月が望んだのは、自らの臓器を、移植を必要としている人々に分け与えることだった?。透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描いた、ファンタジックな寓話ミステリ。第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作。 (あらすじ引用)


初野さん二冊目。またしても当たりでした^^
脳死問題やドナー問題を絡めていて、これなら横溝正史賞と言われてもなるほどと納得出来ます。候補4作の中から審査員満場一致で授賞が決まった作品だそうですね。そりゃそうでしょ、このレベルのものが来てデビュー出来ないなんてそんなバカな話はない。

主人公は暴走族「ルート・ゼロ」幹部の高村昴少年。仲間を裏切ったとされる彼は、ある日謎の男・芥に連れられ、南丘聖隷病院で延命治療を受ける少女と引き合わされます。この少女の正体は謎。事情を抱える昴は一千万円の報酬で、少女葉月のレシピエントを探し臓器を運搬する仕事を引き受けるのです。この葉月がまた不思議な能力?を持っていて、特殊装置により周囲の人間と会話が出来るという設定なのですが。こんな凄い設定を、いい大人が「蘇生器に意思伝達装置をつけた結果です」の一言で済ませているのが凄い(笑)嘘で固めた作品は大好きなのでいいのですが、葉月の言葉遣いがどうして男まさりというか会社の偉いさんみたいなのか^^;こういうところはラノベ体質って感じですよね。

連作のような構成になっていて、昴が選んだレシピエントがそれぞれ語り手となって行きます。やはりお話の一つ一つに力がありますね。長編でも引っ張れそう。それらをラストで繋げ、さらに葉月の謎に迫り、成長物語として完成させるというのはかなりの技術が要るのでは。エピソードのそれぞれをバラバラに放置せず、収束させて行くのはこの作家さんではお手の物という感じがしますね。ショッキングな真相が多く、若者には荷が重いと思われるのですが、そこを昴の外見(白髪になる、など)を変貌させる事で負担の大きさや彼の強さを同時に表現出来ているわけですから。

気になってしまったのは、物語の主旨上必然だとは言え、これだとやはりドナー不足に対するアンチテーゼに留まるしかないという事。一つ一つのお話は感動的で進歩的ですが、数万の一つでしかないという現実はフィクションでも変わらない。そして、レシピエントの人柄がその選択に有利に働いているなんて、、、と、物語と云えど少し反発心を抱いてしまった。