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エコール・ド・パリ殺人事件 -レザルティスト・モウディ  (ねこ3.7匹)

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深水黎一郎著。講談社ノベルス

モディリアーニやスーチンら、悲劇的な生涯を送ったエコール・ド・パリの画家たちに魅了された、有名画廊の社長が密室で殺されるが、貴重な絵画は手つかずのまま残されていた。生真面目な海埜刑事と自由気ままな甥の瞬一郎が、被害者の書いた美術書をもとに真相を追う。芸術論と本格推理をクロスオーバーさせた渾身の一作。 (裏表紙引用)


『ウルチモ・トルッコ』を読んで以来、もうこの作家さん読む事はないかな~、と思っていたのだけどその後に執筆された本書が高い評価を受けていると言う。てなわけで読んでみました。前作に関しては蘊蓄が意味不明だった事による不満が大きかっただけで、題材や作風については好みだったので。

で、本書。なかなかいいんでないかい。
美術に関する蘊蓄はもちろんあるのだけど、前作と手法を変えているしむしろ有り難いサービスだったという感が強い。エコール・ド・パリってなんじゃらほい、という自分がこれを読みながらその絵に興味が湧き、読後彼らの絵を検索して探しまわってしまったぐらいの勢いはあった。
密室の方法や殺人犯の正体など、特に斬新だったとは思わないが、血痕の跡や靴跡など、なぜそうなるに至ったかの筋道は見事に説明されていると思う。さらに、動機についてもテーマに沿っていて流れとしては自然かつ衝撃で、無駄のない本格ミステリがここで完成したと思われる。
読み物としても、上司であるダジャレ刑事がいい味を出していて取っ付きやすく読みやすい。欲を言えば、探偵役の瞬一郎の個性が喰われてしまっているぐらいか。

特に批判するべき箇所も思い当たらず、芸術とミステリとのクロスオーバー、という肩書きに恥ずかしさもない、堂々たる作品。ウルチモで見切ってしまった皆さん、本書を読んでみてからでも遅くはないのでは^^(と、しら菊嬢も言っていた)