すべてが猫になる

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あげくの果て  (ねこ4.1匹)

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曽根圭介著。角川書店

これが格差社会の末路なのか!?貧困大国となった日本の、恐るべき高齢者排除計画ーーそれぞれの理由を抱え、もがく人々に救いはあるのか。黒い笑いと切なさに満ちた、新感覚エンタテインメント!!
(帯引用)


『鼻』で衝撃の世界をぶちかましてくれた曽根さんの最新作はまたしてもホラー。3つの中編が収録されています。本作ほど期待に胸ぱんぱんで読んだ本は今年ないと思いますが、『鼻』に収録されていた『暴落』『受難』がお気に入りだった自分としては、どちらかと言うと『鼻』寄りの作風ばかりを集めた本作には少し戸惑いがあった模様。

『熱帯夜』は莫大な借金を抱えた友人夫婦の自宅に運悪く来訪していた主人公が巻き込まれたトラブルを扱った内容です。暴力団風の二人組に脅され、愛車と友人の帰りを友人の妻と待つ主人公。これだけ書くと曽根さんにしては手垢のついた題材を選んだなと思うのですが、一筋縄ではいかないのが本作の面白味です。少しミステリ色が強いかな。

『あげくの果て』表題作です。これはまさに曽根さんの本領が発揮されたと感じる設定ですね。70歳以上の老人に兵役義務、若者による老人虐殺テロ、風刺色が強くブラックユーモアも利いています。国政の実態は読んでいると想像出来るのですが、そこへ向かって行くまでの過程が空恐ろしい。ラストは空想力を働かせましょう。

『最後の言い訳』実は、評価が4匹越えになったのはこの作品があってこそです。この作品もまさに現代社会の病魔を曽根さん風にアレンジしていてブラックです。食品偽装問題や無差別殺人、今まさに日本のニュースをにぎわしている事件が、ゾンビ社会や食人族という覆いをかけて加工されています。この作品は「今」読まれるべきでしょう。ホラーとしての楽しみも強く、ラストの「最後の言い訳」に拍手するか脱力するかは貴方次第。やたらここでブラックユーモアと連呼していますが、ここにあるのはそのまま私達の住んでいる社会です。見方を変える必要もなく、自分には今の社会がこういう風に見えます。ストレートに描いているだけでただ面白いとしか言えない雰囲気も発しているのですが。


『鼻』のインパクトが強烈だったために今回少しテンションは下がりましたが、傑作集だと思います。
今年イチ押しの作家さんですね。(でもホラーだから万人にはなあ^^;)