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モダンタイムス  (ねこ3.8匹)

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伊坂幸太郎著。講談社


検索から、監視が始まる。
岡本猛はいきなり現われ脅す。「勇気はあるか?」五反田正臣は警告する。「見て見ぬふりも勇気だ」渡辺拓海は言う。「勇気は実家に忘れてきました」大石倉之助は訝る。「ちょっと異常な気がします」
井坂好太郎は嘯く。「人生は要約できねえんだよ」渡辺佳代子は怒る。「善悪なんて、見る角度次第」
永嶋丈は語る。「本当の英雄になってみたかった」漫画週刊誌「モーニング」で連載された伊坂作品最長1200枚。(帯より)


出たら即買いの数少ない作家、伊坂さん。分厚くても気後れしません。本作は挿絵入りの表紙違いと二種類発行されたもよう。さすがにそこまでではないので通常版を迷わず購入。

さて、伊坂作品の中で一番長いと思われる大作ですが、さすがの密度と完成度に読後放心状態です。構成と雰囲気が『ゴールデンスランバー』と似てるような錯覚を感じますが、『魔王』の続編であり、そこから50年後の日本という事でそれなりに懐かしい名前が登場します。まあ、それほど克明に覚えていないのですがリンクと思われる箇所に引っ掛かりがなかったので「魔王」を読んでいなければ困るような内容ではないと思います。

テーマは「魔王」と酷似しておりますが、さらにその考えを突き詰めて行った感が。「魔王」で伝えきれなかったメッセージが、今回は直球でぶつけて来た印象もありますね。特に共感したのは作家である井坂好太郎と、意外にも渡辺佳代子であります。自分がオールタイムベストの乙一記事で書いていた事と通じ合う描写があったと思うのは自意識過剰でしょうか。「考えろ」というメッセージが発信されておりますが、別にここで敢えて深く考える事はないのではないか、と思います。自分や身内、恋人や友人やその周りの人々の事を全てとして生きるのは当然ではないかと思いますし、かと言ってその他の全世界の人々をどうでもいいと芯から思っている訳ではないのも当然でしょう。自分1人の力で何が出来るか、それを自覚した時の虚無感は体験するしないに関わらず誰しもが考えた事があるはずです。考える事をやめる日なんて誰の身にもやって来ないのですから。

自分が伊坂作品に惹かれる理由は、教えてくれるからではなく一致する価値観を上手く表現してくれる唯一の作家だからです。どんな本を読む時でも、それを鵜呑みにしない姿勢は守りたいし、ただ自分と波長が合った時に時間の有意義さを感じるだけです。(井坂好太郎が乗り移った)

あまりストーリーそのものの感想は書けませんでした^^;
少なくとも「魔王」よりはファンの高評価を得られそうだし、スリルとサスペンスとちょっぴりのユーモアを風刺に変えた本作はやはり伊坂作品らしいし、感動こそなかったものの技巧の面では満足ですね。