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死角に消えた殺人者  (ねこ3.8匹)

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天藤真著。創元推理文庫

驟雨に洗われた坂道を疾走し、三途の闇に向かって崖縁を飛び越えた真新しいブルーの車体。星影もない暗夜の出来事は、翌朝の陽光に惨たらしい名残をさらす―。千葉県銚子の景勝屏風浦で非業の最期を迎えた四人は、謀殺の犠牲と断じられるにも拘らず、生前の交友関係を推し量るべくもない。当局の捜査は次第に昏迷の度を加え、徒に日を送るばかり。そして事件発生から一月…捜査本部で重大発表が行われるとの通知を受け、時には連携して真相を追っていた遺族たちが参集、報道陣が幾重にも取り巻く中でハイライトシーンを迎える。この日、母の亡骸に復讐を誓った塩月令子にもひとつの転機が訪れ、局面は更なる展開を見せることに。 (裏表紙引用)


同乗していた被害者四人に何の接点もない、という大きな謎に惹かれて選んだ本。たったひとりの母を理不尽に殺された怒りを原動力に、令子は被害者達と共に捜査を始める。被害者の遺族ということでその心痛は想像するにあまりあるので申し訳ないのですが、この長い物語を読むのに主人公の令子がどうしても好きになれなかったのは痛い。母子家庭という点を除けばそこは普通の若い女性で、性に対しても堅いしそれなりの常識、母を想う心を持った優しいまともな人間だとは言える。しかし、世間知らずでは済まされない年齢に来ているはずの彼女は、その美貌のためか複数の男性達のよこしまなターゲットにされて行く。その姿はカラ回りというには甘過ぎてイタい。黙っていればいいものを夜の商売の女性を卑下する一面があるものだから碌な目に遭わないんじゃないか。

展開はすこぶる面白い。次々と登場人物が令子と絡み合い、その人間性を剥き出しにして行く様は見事。令子が突き止めた謎の手紙の男との接触の章は盛り上がりすぎて読む手が止まらなかったほど。事件の真相も、この時代に読んで「意外」と思える驚きは十分にある。そこからまた始まる緊迫のドラマは火曜サスペンス顔負けだろう。

ただ、個人的に復讐の要素を含んだミステリーでのこういう結末は好きではない。キャラの好悪が影響しているとは思いたくないが、こういう手段を奨励出来るほど自分が物語に対して寛容になれるのは何年後だろうか。