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空の中  (ねこ4.5匹)

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有川浩著。角川文庫。


200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査の
ために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?一方地上では、
子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、
人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは―すべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクル
エンタテインメント。 (裏表紙引用)



前作『塩の街』の表紙があまりに萌え萌えだった事と、内容に後半がっかりした事でそれ以来距離を
置いていた作家さん。前作の印象はどこへやら、こんなに壮大で計算高く、人を夢中にさせる物語を
描く作家さんだとは思っていなかった。一部キャラクターがどこかで見たような、使い回し的な印象は
(光稀さんとか特に)否めないものの、物語を盛り上げるために敵キャラとして存在する真帆の芝居
がかった目立ち加減も鼻につくものの、佳江と瞬の若さゆえのほろ苦い意地を張った関係は好感が
持てるし、彼らの親分・宮じいも”年の功”を発揮した台詞が要所要所でグサリと突き刺さる。

自分が気に入ったのは、未確認生物「フェイク」の存在。無から知性、感情までもを発達させてゆく
過程は謎でありながら読んでいて情が湧いて来る。瞬に懐き、一度突き放されるシーンなどは
切なくて忘れられそうもない。親である「ディック」の分裂や会話も面白いが、あくまでこちらは
最後まで機械的な印象しか得られなかったのに対し、フェイクは特別扱いで生物という地位を
確立していたように感じる。

しかし、不思議と読後感を語るならばまだまだすっきりしない。大人向けのライトノベル、を
目標とされたようだが、青春物としてはこれで完成しているもののあくまでもその域を出ていない
印象も。政府までを相手取り、国家存続を懸けた壮大な物語に、一人の少女が立ち向かう。その
動機が家庭内の些細な事情が発端ではあまりにもスケールに差があるのではないか。
読んでいる内に、楳図かずお氏の傑作『わたしは真悟』を連想したのも自分にとってマイナス要因か。


完全なオリジナリティか、求められるエンターテイメントか。自分には相当な面白さだったので
どうでもいいと言えばどうでもいいのだけど、大事な要素じゃないとも言い切れないなー。
とにかく今『海の底』がめちゃくちゃ読みたい。『空の中』と評価が割れるという噂もあるけれど
どうなんだろう。