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水に眠る  (ねこ3.8匹)

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北村薫著。文春文庫。


北村様の積読本、最後の一冊です。あまり作品名を聞かないのでどんなものかと思ってましたが、
恋愛小説をメインに、SF風のものやちょっと不思議な雰囲気のものを含んだ11の短編集です。
山口雅也さん、加納朋子さん、有栖川有栖さん、貫井徳郎さん、光原百合さん、近藤文恵さん、
若竹七海さん、おーなり由子さん(!)、水星今日子さん、戸川安宣さん、澤木喬さん、という
豪華な解説陣!存じ上げないお名前もありましたが(;^^A。このままその解説をここに
載せれば紹介として十分だと思うのですが、すべ猫管理人のしろうと感想も記しておきましょう。


『恋愛小説』
電話で繋がり合う男女の不思議なお話。ロマンチックすぎてちょっと苦手な系統なのですが、
日常的でありながら謎めいていて余韻が残ります。

『水に眠る』
感覚に訴えるお話ですね。わかる人にしかわからない、バーのマスターが出す特別な水。
普段当たり前のように肌に触れ、体内に取り混んでいるものが違ったものに見えて来そう。

『植物採集』
若い男性社員がある日突然、高価なネクタイを身に付けて来てから、京子は穏やかではなくなった。
こういうちょっと腹黒い女性を描いたお話は好きですね。他人に言えないような自分の些細な行動に
哀しくなった事って誰でも経験があるでしょう。

『くらげ』
SF風ですね。”くーちゃん”の大ブームとなった世界がおぞましくてちょっと面白かったです。
展開としてはブラックでありつつも、新鮮味はなかったかも。

『かとりせんこうはなび』
情緒のあるお話です。出だしが北村さんらしくて良い。若竹さんの解説は後半しか意味が
わからなかったですが^^;自分は、忙しくしている人間ならば出せない感情が”蚊=殺す”
というモチーフにうまく出ているなあと思いました。

『矢が三つ』
二夫一妻制という変わった設定の中で生きるある家庭のお話です。一番印象に残ったのがこれ。
結局影響を受けるのは子供だよね。と身もフタもないお話だなあ、と思ったのは失格かな。

『はるか』
本屋の主人と、新しく入ったアルバイトの女の子。新しいものを受け入れる事に抵抗があるのは
どこの業界も一緒ですね。個人の力が反映されやすいかどうかは経営者次第なのよね。と
またろくでもない感想を思い浮かべるわたし。

『弟』
役者として活躍していた老人が語るお話。老人が語り手になると、哀愁よりも残酷さが
際立つと思うのはおいらだけでしょうか。

『ものがたり』
娘の話が、ラストで絶妙なサプライズの効果を与えます。こういうお話だったのか、という
静かな驚き。”謎が氷解する”タイプのものではありませんが、これで形になるんですよね。

『かすかに痛い』
普段使っているものが壊れたり、歪んだり、足りなかったり。自分が眼鏡を踏んでテープで
補正していた^^;時の気持ち、そして眼鏡屋で直してもらって掛けた時の気持ち。
いいんですよ、そういう時。比喩でも大袈裟でもなく、自分だけの世界が元に戻るのよ。



日常的なお話が多かったですが、バラエティに富んでいる作品集だという印象です。
作品によってはぴんと来ないものもありましたが、来た時が凄い。
地味ですが北村ファンには贅沢でお薦めの作品集と言えましょう^^