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となり町戦争  (ねこ4匹)

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三崎亜記著。集英社


ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。僕は町役場から敵地偵察を任ぜられた。だが音も光も
気配も感じられず、戦時下の実感を持てないまま。それでも戦争は着実に進んでいたーー。シュール
かつ繊細に、「私たち」が本当に戦争を否定できるかを問う衝撃作。第17回小説すばる新人賞
受賞作。(あらすじ引用)



著者の作品を読むのは「バスジャック」に続いて2作目。だいたいの作風は予想していたので
まあ想像の範囲内の作品だったとは言える。範囲内というのは、思ってたより面白かったとか
面白くなかったとかそういう意味のものを含めて。自分は元々評判ほどこの作家さんが凄いとは
思っていない。確かに才能を感じたがこれぐらいのレベルのものなら他で読めると思ったし、
これで何年に一人の逸材と感じるならばその人は今まで読んで来た本と巡り合わせが悪かったのかな、
とまで思ったりした。

その印象は本書「となり町戦争」を読んでいても変わらなかった。ちょっと不条理で設定が
素敵だ、以上のものを感じられないしあまりにも淡白な世界で刺激もなく辟易していた。


印象が180度変わったのは、なんと読み終わってからだった。
別にラストが衝撃的だったとか、意外な結末だったとかではなかったのに。
沁み入るものがあるというのか、前衛的というのか。問題提起ははっきりしているのに、
表現が内に入っているというか。

自分は元々派手な小説が好きだ。
首がなくなって消失だとか、親子の絆にズキュンだとか(死語)、空から登場する怪盗だとか。
そういう小説では惜しみなくキャラクターが大声をあげ、大袈裟なパフォーマンスをし、
哀しみに号泣し、痺れる台詞を残す。
わかりやすいと言えば語弊があるが、こちらがどう感じるべきかを指南してくれているので
ストレートに笑えて泣けて「いい小説だ、考えさせられた」と言える。
それでいて、最近の自分のレビューは3.7、3.7、3.7と自分の参考にすらならない
無難なものが目立つ。すべ猫ブログを一見するとまるで自分が不感症のようではないかと思う。

もうひとつ、別の視点で。
自分は、本書を読んで「戦争とは」について、考えさせられなかった。んだと、思う。
正直に言うと、レビューや帯の推薦文には立派な美辞麗句が並べられており、もし自分が
戦争について何かを述べるならそれらに影響されただけではないかと思ったので触れない事にした。


自分が本書に感じたのは、小説としての描き方や読者(自分)の読み方について、という事と
なんとなく気持ちが沈んでしまったような、いいものをもらったような、奇妙な今の読後感。
妙にヒリヒリする。何がだろう?