すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

雪のマズルカ  (ねこ3.8匹)

イメージ 1

芦原すなお著。創元推理文庫


私立探偵だった夫が事故で死んで二年、手元に残ったのは調査資料とリボルバー、そして滞納した
事務所の家賃だった。失意の底から立ち直った笹野里子は、探偵事務所を再開するーー。実業家の
娘をめぐる陰謀、不思議な行動をとる美人女優の素行調査、ホステス殺しの真相、そして過去の
夫の調査が呼び起こした殺人。四つの事件に里子は挑む。『ハート・オブ・スティール』改題。
(あらすじ引用)



これは、芦原さんの人気作、ミミズクシリーズの印象だけで読んでしまうとエラい目に遭います。
文体の涼やかさや、会話のテンポの良さを考えると絶対に芦原さんなんですが、
ミミズクシリーズにあった「ほのぼの」「笑い」「癒し」が本作には全く見当たりません。
いくら様々な作風に挑戦し才能を発揮、と言ったって、まさかここまで印象を変えて来るとは。
言ってしまえば、はやみねさんが「神様ゲーム」を描くようなもんですよ、これは。


とにかく、1話目の展開にはびびりました。。。はぁ!?と声が出ました。
なんてことをするんだこの主人公は??どういう人間像なんだろう?と頭の中でめまぐるしく
クエスチョン・マークが乱舞し、芦原さん本人の精神までも疑ってしまいそうなショックを受けました。わずか60ページの短編なんですが、もうこの作品を読み終わっただけで
「うわあああ、これダメかも。。」と思ってしまい。それでも我慢出来ずに
残りの3話を一気に読んでしまったのですが。。。。
余計この主人公がわからなくなった。。
探偵業に従事する動機についてはおいおい明らかになって行くので、この人の背景はわかって行くの
ですが。。

明朗会計のぼったくり探偵だと自身を揶揄し、この職種に手ごたえを感じながらも、
持って生まれた勘が「嫌な感じ」のする仕事を寄せ付けてしまう。仕事に選ばれる、運命を
感じる仕事に限って嫌な予感が当たってしまう。はたから見ると天職のようだが、
彼女自身の「精神」には残酷な仕事だ。強くなければやって行けないだろうと思う。

これがハードボイルドの真髄なのかもしれないが、やっぱり共感というところまでは
持って行ってくれなかった。ラストの一行に痺れなければこの物語の狙いを掴めていないのかも
しれないけれど、どうしても哀しいのは同じ女性だからだろうか。

最後で清々しさを感じる人もいるのだろうが、少なくとも私の世界では彼女は自由じゃない。



う~ん、私、結局どちらの作風の芦原さんも好きですね。。
一見淡白な文章から、どんどん読み手の想像力が広がって行くんです。