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向う端にすわった男  (ねこ3.7匹)

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東直己著。ハヤカワ文庫。

ある夜<俺>のところに、結婚詐欺にまつわる依頼が舞い込んだ。詐欺を仕組んだのは、元一流
商社マンの伊野田という男だという。さっそく<俺>は、札幌にメディア革命を起こそうと息巻く
この男の企画会社にもぐり込んだのだが……夢見る男の不気味な犯罪を描く中篇「調子のいい奴」
ほか、バーにすわった謎の男をめぐる表題作など、5篇を収録。(裏表紙引用)



ススキノ<俺>シリーズ、初の短編集でーす。
だんだん読む順番がわからなくなって来たので(すんません姉貴^^;)、とりあえず
よもさんの後を追いかける事にしました。。
執筆順に収録されているという事で、<俺>の成長ぶりがこの一冊で味わえるんですね~。

一話目の表題作があまりにもこれはないじゃないかという程拍子抜けなオチだった所から、
読み進めるにつれだんだん扱う事件が重たくなって行くのがわかります。特に、表題作と
最後の「消える男」の作風の差にはびびります。一話目ほど軽くお調子者のイメージが
強いとがっかりするし、かと言って最後ここまで重たいと続きを読むのに躊躇してしまう。


そんな私のお気に入りは、ちょうど真ん中の「調子のいい奴」。一人の人間の人格が
破綻して行く過程が上手く描かれているではありませんか。中年男の悲哀というのか。
既婚女性でもこういうタイプはいそうですけどね。(失礼をば)
ストーリー的には並だったけれど、続く「秋の終り」のラストシーンも胸にキました。
おいらも本気にしちゃったですよ。<俺>のさりげない優しさももちろんいいけれど、
それにすぐ気付く友人も素敵ではないですか。
さらに続く「自慢の息子」は小品ですが、う~ん、こういう経験を重ねて重ねて、
『ライト・グッドバイ』の渋い苦みばしった<俺>が出来上がって行ったんだなあ、と。

息抜きのような短編集かと思っていたのですが、やっぱり最後の作品は
<俺>にとって忘れてはいけない、分岐点となる事件だったのではないでしょうか。

椅子に座ってうんうん考えてるだけじゃ、人は成長しないって事。