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冬のオペラ (ねこ3.8匹)

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北村薫著。角川文庫。

勤め先の二階にある「名探偵・巫弓彦」の事務所。わたし、姫宮あゆみが見かける巫は、ビア・
ガーデンのボーイをしながら、コンビニエンス・ストアで働き、新聞配達をしていた。名探偵と
いえども、事件がないときには働かなければ、食べていけないらしい。そんな彼の記録者に志願した
わたしだったが……。真実が見えてしまう名探偵・巫弓彦と記録者であるわたしが出逢う哀しい
三つの事件。(裏表紙引用)


突如北村薫に目覚めた私の為に、たいりょうさんがオススメしてくれたこの短編集。
気に入った。とても気に入ったぞ。
しかし、たいりょうさんの本書の記事を拝見してみると、自分とはツボが微妙に違った
かもしれない。とは思った。たいりょうさんはここに収録された三つの物語の哀愁、美しさ、
人間ドラマそのものに感銘を受けたとお見受けしたが、自分としてはそこのポイントは
存在を認めながらもまあ普通だった。
では自分のツボは何だったか。たいりょうさんが全く触れられていない訳ではないが、
この無名の名探偵・巫弓彦のキャラの魅力である。別に御手洗潔のように颯爽ともしていないし、
メルカトル鮎のように端正でもないし、エルキュール・ポアロのようにお洒落で自信家でもない。
はっきり言うと、想像で彼を映像化した時、ビジュアル的にかっこ良くないのだ。
少なくとも、前述した希代の名探偵達はビアガーデンのボーイや新聞配達なんてしないぞ。
(タックなどの、開業していない、職業探偵でない場合は除く。。)
とにかくこんな面白い探偵には初めて会った。
自己アピールはしない、報酬もいらない、それでいて確固たる「探偵としての信念」は
不動のものとして胸に秘めている。謙遜と卑屈はまるで違う。この巫という探偵の持つ
意志こそが尊厳であり意志だ。

しかし、余談ながらたいりょうさんの敬愛するN月探偵と、この巫探偵はまるで
性質が対照的なような気がするが。面白いもんだ。