すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

赤朽葉家の伝説 (ねこ4.1匹)

イメージ 1

桜庭一樹著。東京創元社

”辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した
旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の”千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、
わたしの祖母である赤朽葉万葉だーーー千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。
高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の
女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の姿を、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた
渾身の雄編。(あらすじ引用)



購入したのは一週間ほど前になる。
一気読みする吸引力を期待したが、実は読み切るのに結構な日数がかかった。


一番面白かったのは第一章。赤朽葉万葉の「最後の神話の時代」。
千里眼の異名を取りながら文字が読めず、端では地球が丸い事も「地球」が何かも知らなかった
万葉。女中でありながらお妾さんの立場である”裸踊り”の真砂。”下の黒”、黒菱家の
いじめッ子・みどり。小難しい読み方は自分には出来ない。愛人の立場である女の悲しさ、
家柄に取り憑かれた小さな子供の悪意と、それぞれの顛末はとても悲惨で、残酷で、
救いのない現実でありながらも、「美しい」と感じた。今思うと一緒に泣けば良かったと思う。

個人的に愛してしまったのは第二章、万葉の娘で瞳子の母である毛毬。
赤いリボンのポニーテールが愛らしい、レディース族のトップを爆走する彼女は、やがて
突然投稿した漫画が出版社に見初められ、一躍トップレベルの売れっ子漫画家になった。
なんだそりゃ!!(笑)
担当者との心の疎通が困難になってゆき、12年ものロングヒット連載を完結させるまでの
怒濤の人生がフルスピードで描かれる。
この時代あたりから、自分が肌で「知っている」流行、事件に突入する。だんだん、
今生きている現代に近づきつつあるのがわかる。


ここまで読んで、それぞれに疑問点が残る。(毛毬には本当に彼女が見えていなかったのか、
とか)彼女の実際の胸の内は結局語られないままここでまた一人の女の人生が終わる。


そして最終章。瞳子の生きる現代とその未来である。
「自由」という名前を貰い損ねてしまった彼女は自らを「何者でもない」と自嘲し、
社会に出ても血筋あるいは名前が枷となっているのか、誇りを捨てる事を嫌悪し
馴染む事が出来ずに逃亡する。捨てる誇りすらないと自覚しているあたりは現代の若者の
等身大の姿に映る。大物だった祖母と母を愛せど甘える胸はなく、「自由」とは皮肉だ。


全て読み終わった今、はっきり言ってよくわからない。
謎は謎のままだし、むしろこう終わってくれて自分には良かったんだと思う。
この作家さんは実にいい終わり方をする。
年代記って覗き見してる気分になるんであんまり好きじゃないんだ実は。。


これだけの評判を得ている作品だから、後読みの特権として皆さんの記事を拝見しに行った。
行きまくった。親しいお仲間さんから始まり、そこで怒濤のトラックバックに飛びまくり、
その先でまた飛びまくり、果てはお付き合いのない方の記事まで随分と出張してしまった。
一時間以上かかった。ふう。
絶賛率100%。
正直、皆さんと自分との温度差を感じてちょっと落ち込み気味^^;
皆さんの記事の方が面白かったような気がするほどに、
自分には特別ヒットした作品ではなかったということ。

記事にするか逡巡したのですが、自分の正直な感想なので記録として残す事にしました。
これだけの名作にこういう感想しか抱けない人間もいるんだな、とそっとしてやって下さい^^;
(でもウチで4匹超えってかなり高いんだが^^;あまりの大評判なのでそれでも
「えーっ」と思われる方もおられるかも。。)