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十角館の殺人 (ねこ5匹)

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綾辻行人著。講談社文庫。

半年前、凄惨な四重殺人の起きた九州の孤島に、大学ミステリ研究会の七人が訪れる。島に建つ
奇妙な建物「十角館」で彼らを待ち受けていた、恐るべき連続殺人の罠。生き残るのは誰か?
犯人は誰なのか?(裏表紙引用)

再読による修正記事です。
※多くのネタバレを含みますので、未読の方は絶対に記事を読まないで下さいね!↓





何度読んでもあの一行の感動が甦って来る、日本本格ミステリ界屈指の名作、
館シリーズ第1弾にして綾辻氏の記念すべきデビュー作。

実は自分は今でさえ毎日こういうものが読みたい。
こういうものとは。

設定は「そして誰もいなくなった」を彷彿とさせる、島に隔離された数人の人間、
不気味な予告殺人プレート、思わせぶりな本土との二重構成、予告通り行われる殺人。
読者が本格ミステリーを愛し、ある程度それの常識的な知識を持っている事を前提にした
大仕掛け。やはり読者はニックネームに見事騙されてしまうのだろう。本土にいる、
本名で最初から登場している二人の「河南」「守須」のニックネームがコナン・ドイル
モーリス・ルブランである事を推理出来てしまうそのマニアさに足をすくわれる。
十一角形のカップなどの小道具の使い方も見事。
登場人物達が恐れおののくと同時に自分も次はどいつかとおののく。
追いつめられた人間故の愚かな行動、全てが読んでいてどこもひっかからない。
そして自分は何であれ最後に犯人が罰を受けない作品は支持しないのだが、
本作ではプロローグと結びついて見事なエンディングと言える。「審判か」という
ヴァンがつぶやいた一言ではクリスティの名作になぞらえ、好意的に読んだ。

さすがに探偵である島田潔の無個性ぶりには苦笑するし、プレートの「探偵」「犯人」を
もっと有効的に物語で使えたらもっともっと良いぞ、とは思ったがここは敢えて
マイナスポイントにはしなかった。

読み終わった今ですら、もう1度苦なく読めるだろう希少な作品。
誰が何と言おうと、読書の方向性を決定づけてくれ、人生に影響を与えてくれた本書には
褒め言葉しか書く事はない。