すべてが猫になる

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一枚の切符 (ねこ4.3匹)

一介の書生である左右田五郎が飲み屋で語り出した話。
ーー町の外れ、富田博士邸裏の鉄道線路で博士夫人が列車に轢き殺された。
登場したのは名探偵と呼び声高い黒田刑事、夫人の懐中から出て来た遺書、
足跡などから犯人は富田博士だと指摘。
そこで登場したのが左右田、線路脇の石塊の下で発見した一枚の切符と
博士の短靴の紐からこれは冤罪と確信するに至りーーー。


乱歩の2作目短編であるが、実際は「二銭銅貨」より一週間ほど前に
執筆し、同時期に発表されたもの。が、世間の評価は「二銭銅貨」の方に
集中しこちらは日の目を見なかったという。

なぜだ。なぜなんだ。
私は断然本作の方が好きなのだ。←世界は私中心^^;
乱歩ファンでなければ耳馴染みのないタイトルと推察するが、私は有名な初期の
二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「心理試験」よりもこちらの方が面白いように思う。
ガチガチの本格ミステリに過ぎ、作者曰く「普通小説的要素が少ない」のも
当を得ているし、「算盤が恋を語る話」あたりから突出してきた乱歩的文章も
まだまだ姿を見せていない。だからかな。(わかっているようだ)

実際、名探偵刑事とやらと左右田が顔付き合わせて対決していれば別の楽しみ方は出来たかな。

私が本作に愛着を持つ理由は、何と言ってもこの結末。
今では珍しくない探偵のトラップだが、この空想家のやることはお茶目で洒落にならないぞ。

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光文社文庫江戸川乱歩全集』第1巻「屋根裏の散歩者」収録。
春陽文庫江戸川乱歩文庫』第7巻「心理試験」収録。
創元推理文庫『乱歩傑作選』第11巻「算盤が恋を語る話」収録。