すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

第三の時効 (ねこ4.3匹)

イメージ 1

横山秀夫著。集英社文庫


6編収録の短編集。
今後これは「F県警強行犯シリーズ」となったそうで。
第一線で活躍する刑事達の物語。
そう、これは単なる事件の謎解き小説ではなく、刑事と事件記者、熱い
男達を描いた人間ドラマなのです。

警察内部のリアリティある実情、刑事たちの葛藤と摩擦、
ミステリとしての完成度、そこに登場する刑事、あるいは犯罪者、関係者達の
緻密で繊細かつ奥深い人生ドラマは、傑作「陰の季節」「動機」から少しも
衰えを見せておりませんね。


人間を描く、というのは実はとても難しいんだと思います。
変人だったり、奇抜な名前だったり、魔法が使えたり。設定だけでは
命を吹き込んだことにはならない、というのは再三書いて来ました。

ここに出て来る刑事達は決してなんとかマニアでもないし
鬱病になってスネたりもしないし「うにー」などという奇声も発さないし
「じっちゃんの名にかけて」などという決め台詞も持っていない。
なのに、
ある意味没個性であるはずの一機関の一人である刑事達のなんと生き生きしていること。
時には嘘を付き、己を守り、部下を詰り、弱音を吐き、ある者は逃走し
ある者は慟哭しある者は奸計をはかり、刑事という仕事にプライドを持って
悩みながらも熱く生きている。
「人間を描く」とはこういうことだ、というお手本を見せられたよう。


実際、こんなに刑事達のナワバリ争いやら出世競争やらしがらみやらがあるとすれば、
被害者にはたまったもんじゃありませんが、
そこを原動力に相乗効果を挙げて犯人逮捕に踏み切ってもらえるのであれば、
一般市民としては頼れるおまわりさん像として読めるのですけども。


個人的には「第三の時効」(表題作)がイチ押し。
6作すべて傑作と言っても過言ではないと思いますが。


あとがきで池上冬樹さんに先に言われちゃいましたが、私だって言いたい。
横山氏は今このジャンルで一番面白い作家だと思う。読むべーーし!