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魔偶の如き齎すもの  (ねこ3.9匹)

三津田信三著。講談社文庫。

所有する者に福と禍(わざわい)を齎すという”魔偶”。その、奇妙な文様が刻まれた土偶を確かめに、刀城言耶は旧家・宝亀家を訪れる。すでに集まっていた客たちは、話し込む当主と言耶をよそに次々と魔偶を収めた”卍堂”に向かうが……。表題作他、文庫初収録「椅人の如き座るもの」を含む全五編を収録したシリーズ第三短編集。(裏表紙引用)
 
如きものシリーズ短篇集第3弾。文庫初収録作を含む5篇収録の、ファン満足度の高い一冊。面白かった、短篇集の中ではピカイチかも。全て、「水魑~」以前の刀城言耶が大学を卒業してから3年後くらいの時代のもの。…だと思う。
 
「妖服の如き切るもの」
坂の中途に建つ二つの砂村家では、息子を交換する形でお互いの甥(三男)と主人が暮らしていた。ある日双方の主人が殺害されるが、息子2人にはどちらもアリバイがあって…。犯人が判明している状態で、トリックを暴くミステリー。使用人や近所の住人が重要なコマとなっている。事件とは別にある、人にとり憑く妖服の呪いが不気味。
 
「巫死の如き甦るもの」
ある村の織物業の元締め一家の次男が、村の中に独自が管理する自給自足のもう一つの村を作ったという。その村では6人の女性が歩かない、話さないなどの苦行が行われていた。やがて自身を不死だと触れ回る次男の行方が分からなくなり…。短篇としてはかなり状況説明が長くなってしまう。長篇でも読みたかったと思うぐらい詰め込まれた内容。苦行の設定もイイし別の殺人事件も絡むあたりも読みごたえあり。真相にビックリ。おえ。怪異的なオチも〇。
 
「獣家の如き吸うもの」
山中道に迷った歩荷と学生の体験した10年越しの怪異を、言耶が話し伝いに解き明かす。彼らが出会ったのは果たして同じ家なのか?そして現代に繋がる意外な真実とは。
怪異ではないリアルな部分と、やはり怪異の部分とのバランスが良し。しかしここまでするかね。。。
 
「魔偶の如き齎すもの」
2つ所有すると幸運と禍を齎すという魔偶。禍の大きさに尻込みする者は多いが、欲深い人間はやはりいるもの。魔偶の所有者宅に集まった男たちと編集者の体験した殺人未遂事件の真相とは。。。入口が4つあるあたり、ミステリー好きの好奇心をくすぐる感じ。言耶の、一人一人を名指しして犯人ですとやるやり方、ちょっと頭が悪いのでわかりにくかったが、そこだけを見ていては見えないものがあるということ。祖父江偲初登場作。
 
「椅人の如き座るもの」
木材商の三男が製作する木彫りの不気味な家具たち。それは全て人間をモチーフにしており、なおかつ実用性に富むものばかり。しかしそれを快く思わない身内が工房で行方不明になり。。。まさに乱歩世界。この設定だけでご飯3杯。消えた遺体の謎もすべて世界観を壊さないものだったしかなり好み。
 
以上。
短篇ではもったいないアイデアが多々。特に「巫死」と「椅人」がお気に入り。曲矢刑事の変わりに小間井刑事というのが活躍するのが特徴かな。偲さんとの出会いも読める。言耶の推理方法は当時から変わってはおらず、論理的だが残る謎には不条理性を受け入れる、だそうだ。三津田ミステリの特徴でもあるよね。