すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

看守眼  (ねこ3.9匹)

f:id:yukiaya1031jp:20220116145319j:plain

横山秀夫著。新潮文庫

刑事になるという夢破れ、留置管理係として職業人生を閉じようとしている、近藤。彼が証拠不十分で釈放された男を追う理由とは(表題作)。自叙伝執筆を請け負ったライター。家裁調停委員を務める主婦。県警ホームページを管理する警部。地方紙整理部に身を置く元記者。県知事の知恵袋を自任する秘書。あなたの隣人たちの暮らしに楔のごとく打ち込まれた、謎。渾身のミステリ短篇集。(裏表紙引用)
 
横山さんの読みこぼしを。久しぶりに読む警察(政治、マスコミ、裁判なども)小説、最初の数ページだけ入り込むのに力が入ったけれどあとはスルスルと読めた。色々な立場の職業の人びとに起きた事件や出来事をまとめた短篇集。
 
「看守眼」
R県警教養課で機関誌を担当している事務職員の悦子は、ある留置管理係の退職者・近藤が回想の原稿を提出していないことで困惑する。近藤は1年前の主婦失踪事件を調査しているらしいが…。
執念と言っていいのか、ミステリ的にもどんでん返しあり推理ありとハラハラした。仕事に意義を見いだせない悦子が、最後に「婦警が幼く見えた」というのは彼女の成長だろうか。
 
「自伝」
フリーライターの只野は、兵藤電機会長の自伝を任されることになった。しかし会長は、自分は昔女を殺したことがあると告白し…。
只野の不幸な生い立ちからここまで話が展開するとは。会長に仕える男の正体にも驚き。人間性、その印象が2人の人間で入れ替わる衝撃。これは同情できないかな。。
 
「口癖」
調停委員をしている関根ゆき江は、新件で担当する離婚調停の妻の顔に見覚えがあった。かつてその母娘は、自分の娘に関わっていたのだ。
思い込みと偏見。ゆき江のほうが痛い目に遭いそうなフラグがすごい。そのとおりになったわけだがラストは意外とあっさり。なんせこんな調停委員いやだな。
 
「午前五時の侵入者」
警察の情報管理課責任者の立原は、ある日警察のホームページが何者かにクラッキングされたことを知り愕然とする。
わずかな閲覧者を特定して自宅に行き1人1人口止めするって凄いな。。軽い気持ちでやった犯罪が誰かにとってどれだけのものを奪ってしまうのか。理不尽だな。
 
「静かな家」
県民新報編集局外勤記者の高梨は、記事にした無名の画家の個展の開催日を間違って掲載してしまい、それを隠蔽する。同じ日に、別の記者がさらに大きなミスを仕出かし。。
殺人事件に発展するので、1番ミステリらしい作品かな。電話のトリックは分かりやすかったが、お粗末な犯罪。それより、大変な世界だなあ、自分にはムリだわ。
 
「秘書課の男」
知事の参事兼課長である倉内は、最近知事に嫌われているようで気が気ではなかった。倉内への批判投書がなぜ知事に直接廻ってしまったのか。
この知事もなんだかなあ、って感じではあったな。若手エースの存在がスパイスになっている。
 
以上。
出来にバラツキがあったのか、自分自身ののめり込み方が違うだけだったのか、というあやふやさはあるけれど、どれも水準以上の面白さがあったと思う。横山作品は、出だしですぐ誰が主人公なのか立場はどこの何なのかが分かってて混乱しないのがいいね。表題作と「自伝」「口癖」が好きかなあ。モヤモヤするものもチラホラあるけれど。