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ノースライト  (ねこ3.6匹)

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横山秀夫著。新潮社。

横山ミステリー史上最も美しい謎。 熱く込み上げる感動。 一家はどこへ消えたのか? 空虚な家になぜ一脚の椅子だけが残されていたのか? 『64』から六年。待望の長編ミステリー。 一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに……。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた古ぼけた「タウトの椅子」を除けば……。このY邸でいったい何が起きたのか? (紹介文引用)
 
話題になった横山さん久々の長編。「看守眼」「64」がまだ未読なのだがこちらを先に。
 
主人公は建築士の青瀬。インテリアプランナーの妻と離婚後、ひとり娘の日向子と月一度の面会が習慣となっている。吉野夫妻に「あなたの住みたい家を建てて下さい」と信濃追分での新築設計を依頼されたが、数ヵ月後、その家に吉野夫妻は住んでいなかった。一脚だけ残されたタウトの椅子にはどんな謎が?一家はどこへ消えたのか?
 
「タウトの椅子」というのが物語の骨子となっていて、一家行方不明事件よりはタウトという建築家について掘り下げる内容のほうが大きい。また、岡崎設計事務所メンバーとの人間関係や青瀬自身の家庭の問題にもかなり比重がかかっていて、無駄のない描き込みが横山さんという作家の筆力を感じさせる。登場人物のルーツを紐解いて二つの大きな謎が最後にやっと交わるのだが、それとこれとは別かな?そう思うと建築家サイドの話は結構苦痛だったかな。。タウトの作品には興味が湧いたけれども。事務所内の恋愛沙汰もなかなかにうっとうしかった…。特にマユミさん。自分がいくら好きでも、相手夫婦の子どもの出自がどうとか奥さんの素行がどうとか、所詮他人が入って行っていいものではないと思うなあ。もっと周りを見て、いい恋愛をして欲しい。いや、多分きっとその相手は出てきているんだけれど。青瀬のほうも、もしかしたら希望があるんじゃないかな。ちょっとした行き違いだったわけだし、やはりちゃんと話をしないと相手のことなんて分からないんだなあと思った。
 
さておき、青瀬がこの事件に関わることによって建築士としてのプライドややる気が再燃したのは喜ばしい。事務所一丸となって仕事をやり遂げようとするラストは胸がすく思いだったし、青瀬の再生物語としてはかなり熱い作品じゃないかな。吉野夫妻の謎については何だそれと思ってすいません。
 
ちょっと横山さんに求めるものとは違ったけど、なかなかの力作。