すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

少年時代  (ねこ3.8匹)

f:id:yukiaya1031jp:20190926145621j:plain

深水黎一郎著。ハルキ文庫。

 

町を歩くチンドン屋のシゲさんが吹くサキソフォンの音色に惹かれ、彼についていった僕。シゲさんは僕に、“あきらめないこと”の大切さを教えてくれた。ある日、町で殺人事件が起きて…(「天の川の預かりもの」より)。その他、アクの強い両親のもと犬を飼い始めた少年、柔道部での上下関係に揉まれる少年…大人の世界の理不尽にさらされながらもひたむきに生きる、ピュアな彼らの成長を描く。昭和の香り漂う懐かしい時代の風景から予想外の展開が待ち受ける、書き下ろし連作小説。(裏表紙引用)
 
深水さんの連作短編集。昭和時代を生きた少年たちのお話が三編収録されていて、最後の作品で一見無関係な前の二作品が繋がりを見せる構成。
 
「天の川の預かりもの」
街を歩くチンドン屋について行った少年は、ひょんなことからサキソフォン吹きの青年シゲさんに家まで送ってもらうことに。やがてシゲさんと少年は心を通わせていく。最後に少年が目撃した事件が、彼に思わぬ宝物を与えることになる。切ないお話だが大人に教わった大切な気持ちもまた彼の宝となったことだろう。
 
「ひょうろぎ野郎とよろず犬」
町の洋館の住人が引っ越していったあと置き去りにされていた雑種犬。少年は両親の反対を押し切りその犬を飼うことになった。ガラは悪いが両親の会話が掛け合い漫才みたいで笑える…。たしかに最低の親父だけど、「元親父」はないよなあ。。悲しくも感動作だが、ロリコンのくだりは余計だな。最後まで「ひょうろぎ」「よろず」の意味は分からなかったが、まあ、ニュアンス的に悪口のたぐいだろうな。
 
「鎧袖一触の春」
柔道部の高校一年生たちがOBにしごかれるお話で、最初はつまらなかったのだが…理不尽な体罰もシゴキも、これ今やったら大問題だろうな。途中から、前二作と色々繋がるのが気持ちよい。そうか、だから前二作の少年には名前が付いてなかったんだ。試合でシゴキの成果が出たりOBにやり返したりと痛快。1番良かったかも。
 
で、このあとエピローグやらなんやらでなかなか終わらない。蛇足ではあるが、あちこち連れ回されて斬新だった。さすが深水さん、タダでは終わらない。ここ数作読んできた中では1番の作品かな。