すべてが猫になる

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八月の舟  (ねこ3.7匹)

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樋口有介著。文春文庫。

けだるくて退屈な夏休み。高校生のぼくは不思議な魅力を持つ少女、晶子と出会う。晶子、親友の田中くん、そしてそれぞれの家庭や周囲の大人たちを傍観しながら、ぼくの夏が終わっていく…。1960年代の北関東の小さな街を舞台に、清冽な文体で描かれた、ノスタルジックで透明感に満ちた青春小説の傑作。(裏表紙引用)
 
いただき本。久々の樋口さんいいねえ。調べたら樋口さん読むの12冊目だそうな。ミステリではなかったが、60年代のちょっとシラケた高校生たちのひと夏の日常がみずみずしく描かれている。
 
主人公はちょっと派手で奔放な母と2人で暮らす高校生・葉山研一。友人の田中くんと、田中くん経由で知り合った晶子。3人で過ごす夏休み。特別不良って感じでもないのに(真面目系でもないが)、全員お酒を飲んだり堂々とタバコを吸ったり車を乗り回したりしているのが時代を感じるなあ。大人がそれを今ほど咎めないというか。見た目や普段の態度ではどこにでもいる冷めた若者たちという感じ。
 
起きることは友人の死や田中のケガぐらいなのだが、それぞれ3人の家庭環境が変わっていたり、周りにいる人々が奇天烈だったりするので何も起きなくてもそれなりに読める。文章のうまさがほぼその魅力を担っている気がする。恋愛パートも、この時だけ自分の人生に関わった儚さみたいなものがあって切なげ。主人公の研一が妙に達観していて、自分の気持ちを自覚しないところがあるのかな。だから最後の展開で見せた研一の感情の迸りには迫るものがあった。
 
200ページちょいなので、良かったらどぞ~。