すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

好き好き大好き超愛してる。 (ねこ3.6匹)

イメージ 1

講談社ノベルス

表題作と、『ドリルホール・イン・マイ・ブレイン』(中編)の2作収録。

覆面作家の「芥川賞候補作」として少し話題となったのはまだ記憶に新しい本書の待望の
ノベルス化。本屋で装丁を見てびっくりするがいい。横から下からショッキングピンク
染め上げられている。本書が浦賀と同日発売で良かった。2冊買うなら100人中100人が
好き好き大好き超愛してる。という本なんですが~」と聞くよりは
「八木剛士 史上最大の事件という本なんですが~」と
聞く方を選ぶだろう。(え、究極の選択?ナニを仰るやら)片方が入ってりゃもう片方も
入荷しているはずだ。

さらにすいません、浦賀を迷わず先に読んでしまった。これは愛の差ではない。
浦賀和宏舞城王太郎なら私は1秒も迷わず舞城の方が好きだと答える。つまりあれだ、
「おいしいものは後にとっておく」というやつ。それとも単なる話題負けか。内輪の。。^^;


好き好き大好き超愛してる。

作風は相変わらず舞城節健在のラップ調純文学。若い読者なら肋骨融合とか神との戦いだとか
ストーリーのない整合性のないこの世界も斬新だろうが、こういう文学は昔からある。
特別舞城氏が天才というわけではない。凄いのは、それを独自の作風で現代風に咀嚼し、
自身のアイデンティティーを惜しみなく表現できるこのリズム感だろう。
感動までは行かなかったが、男性による究極の愛情表現は読んでいて爽快のきわみ。

ドリルホール・イン・マイ・ブレイン

文字のフォントが本来のノベルスのものに戻った。紙質まで凝っていた1話目からの
突然の変化でコッチの方が慣れてるはずが妙に読みにくさを感じた。
こちらは、作風は今まで通りでテーマも1話目と共通している。グロ&エロの
融合と不条理な設定という舞城氏お得意のもの。
個人的にはこちらの方が好みではあったが、両親虐殺、主人公の頭に突き立てられた
プラスドライバー、生き延びた主人公の頭に空いた「穴」と、恋人に生えている「角」の
結合、そして主人公に課せられた任務は世界を救うこと。というこの設定は
かなり読者を選ぶだろう。電車では確実に読めない。

突き抜けた感じではあるのだが、何か足りない。
というのは両方の作品で感じた。完成されてはいるのだが、「熊の場所」「バット男」で
見せたような、選ばれた作家だと感銘を受けるような衝撃は今回ではなかった。
あんたの好みだろうと言われたらそれまでだし、今作のテーマが男女の愛、という
表現に限界を感じるものであったからかもしれない。
それがつまるところ「好き」「大好き」「超愛してる」という簡潔にして単純な言葉に
落ち着いたというのはやはり自分の読解力の鈍さか。


どうでもいいが、ノベルスには舞城さんによる力作イラストのポストカードが
付属されている。もったいなくて使えないから保存用にもう1冊買おう、というほどの
ものでもないがちょっとウケる。。。こういう遊び心も作家だって持っていたい。(のか?)