すべてが猫になる

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汚れた手をそこで拭かない  (ねこ4.2匹)

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芦沢央著。文藝春秋

第164回直木賞候補作 平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷つけたくない夫。 元不倫相手を見返したい料理研究家……始まりは、ささやかな秘密。 気付かぬうちにじわりじわりと「お金」の魔の手はやってきて、 見逃したはずの小さな綻びは、彼ら自身を絡め取り、蝕んでいく。 取り扱い注意! 研ぎ澄まされたミステリ5篇からなる、傑作独立短編集。(紹介文引用)
 
芦沢さん5冊目。いやいやいや、今作も面白かった!ゾクっとするお話からハラハラするお話まで、どれもそのレベルの高さからイヤ~な気持ちにさせてくれる。
 
「ただ、運が悪かっただけ」
余命わずかの妻が工務店勤務の夫から聞かされた、「俺は昔人を殺した」という話。
こういう〇〇の故意ネタってミステリにはたまにあるのでそこは想像通りだったけれど、「善行」をここまでねじ曲がって解釈する人間のほうにゾワっとしたなあ。自業自得感。語り手の妻のほうにお話の締めを持ってくるところもまとまりがいい。
 
「埋め合わせ」
小学校教員の千葉は、ある日プールの排水バルブを締め忘れてしまい、水が半分流出してしまった。調べると13万円の損害。なんとか子どものいたずらのせいに出来ないかと画策するが…。
たかが13万のためにここまでするか…は置いといて、教員らしく考える能力はあるようで、それがアダになったか。頭脳明晰なキャラクターではない人物に追い込まれるあたりうまいなあと思う。一番これが好きかな。
 
「忘却」
武雄の隣人・笠井が熱中症で亡くなった。エアコンをつけていなかったのが原因らしい。それを聞いて、自分が間違って開封した笠井宛の電気料金滞納の督促状を渡し忘れたせいではないかと考え日々煩悶するが…。
今は安くなったとはいえ、エアコンの電気代ってやはり気になるものよね。だからってこれはないな。いい人だったらしいけど、犯罪にまで走る人はやっぱりそっちが真の顔なんだと思うけどね。
 
「お蔵入り」
無名監督の大崎は、実力派俳優と人気アイドルを主演に据えた映画を撮り終え感慨にふけっていた。しかし映画公開前、俳優に薬物使用疑惑がかかり、本人がそれを認めた。悪びれない俳優に激高した大崎は旅館の6階から彼を突き落とし死なせてしまう。全てを隠蔽しようとした大崎らだが、旅館の従業員から「俳優の部屋からアイドルの声が聞こえた」という偽の証言があがり進退窮まってしまう。
今は〇〇いじりって御法度だし、従業員の動機には見当がついたけど…。見た目で人を舐めていると痛い目にあうといういい教訓。
 
ミモザ
有名料理研究家の美紀子は、サイン会に現れた過去の不倫相手の出現に混乱する。呼び出しに応じた美紀子に、男は金銭を要求するが…。
このお話に関しては、ああ、もう!なんで会いに行くの!とかなんでそこで払うの!!とか、美紀子の行動にイライラしすぎて頭から湯気が出そうだった…。。どんどんドツボにはまっていく美紀子の運命にハラハラしたけど、一番怖いのは不倫相手じゃなかったっていう黒オチ。
でも正直、年収2千万の女性なら1人になったところで人生詰まないと思うんだけど。この生活も地位も夫の力じゃないよね?この続きが読みたい。
 
 
以上。
1篇目だけ、自分の中ではちょっとだけ落ちるかな?って感じで、あとは会心の出来だと思う。特に「埋め合わせ」の発想力はすごい。どれも次が気になってページをめくる手が止まらない感じ。イヤミスに分類できそうな作品もあるし。芦沢さん、いずれ誰もが知る凄い作家さんになりそうだなあ。