文藝春秋。
素人探偵の成瀬は、ある日駅のホームで自殺をはかった女性を救う。それがきっかけで
交際が始まる。一方、友人のキヨシから悪徳商法会社のからむ殺人事件の調査を依頼されてーー。
以下、思いっきりネタバレします。↓未読の方は絶対読まないでください。
いやあ、「予備知識」というものがこれほどミステリを読むうえで邪魔になるとは、ということを
痛感させられた1冊です。「ラストで驚愕」「騙された!」「映像化は無理!」という
例のアレですよ。。
いや、例えその予備知識があったとしても自分はどうせ騙されるんですけどね。
(いやいや、騙される、というより「真相がわからない」というただのバカです。)
自分にとっての「騙されたぁぁあ!」という喜びっていうのは、
「十角館の殺人」であり、「星降り山荘の殺人」であり、「慟哭」であるわけです。
単なる「叙述トリック」てだけでは爽快なる騙された感は味わえないわけで。
この作品のトリックは、「年齢の錯誤」「人物の錯誤」というやつですが、
これがまた苦しいのなんの。だって老人だったんですよ、成瀬さんもさくらさんも綾乃さんも
キヨシ君も!キヨシ君に至っては老人の「現役高校生」!通るかこんなトリック!
ーーーしかーし、これが通るんですよ。ラストの「補遺」で。ふふふ。
ここまで来てやっと「やられた……歌野さん、あなたの勝ちです」となるんですねー。
こんなことされたら、つっこみどころにつっこめないもの。。。
まあそこは置いといて、全体的なストーリーは充分ハードボイルド的で楽しめました。
減速せずにぽんぽんと展開し、だれる箇所もなくハラハラドキドキ。
文章力はさておき、この作家のパワーで最後まで一気に読ませてくれます。
でも最終章の成瀬の人生観と愛の告白はちょっとひきました。。。
いや、正しいんだけど。わかるんだけど。そんなくどくどと説明されても、ねえ。。。
ということで、私にとって歌野氏は1作読むごとに好きになったり嫌いになったりする
珍しい作家。歌野氏二人説が飛び出しそう。
でも、どれを読んでも結局は「異端だよなあ……」とつぶやいてみるのでした。