すべてが猫になる

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ZOO (ねこ4.6匹)

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集英社。10作品収録の短編集です。


全世界で(大げさな)自分が思う「天才」を3人挙げろ、と言われたら、
間違いなく乙氏を挙げます。

もしかして寝ながら書いてんじゃないかとかテレビ観て笑いながら書いてんじゃないかとか
想像してしまうのは私だけでしょうか。
実際はそんなはずはなく、乙氏は「小説の書き方」のような教則本をきちんと
読んでお勉強していたそうな。(風のうわさ)
しかし、そう思えてしまうくらい、こんなもん努力で書けるか!?という域まで
到達してませんか乙さん。
デビュー時から変わらない青臭い文章も、心理描写をこれでもかというくらい
すっ飛ばして乾いた世界を描いているのも、すべて計算の上だとしたらじゃあ一体
何者なんでしょう、この方は。

そんな乙さんの(脈絡なし)、すばらしい短編集についてです ↓

「カザリとヨーコ」

これが一番気にいってます。いきなり「ママが私を殺すとしたら一体どのような方法で
殺すだろうか」という書き出しに唖然。。。双子の姉妹、母親から虐待を受けている
少女の設定は奇抜ですが、展開は目新しくもない。なのに、乙さんの手にかかると
こんなに新しい世界が完成しました。
「あんたはわたしが生んだんだ、生かすも殺すもわたしの自由なんだ!」に対し、
「わたしの子じゃない」と言われるよりきっとましだ、なんて一行を持って来れるでしょうか。。。

「血液を探せ!」

痛覚がなくなった老人とその家族が織りなすどたばた物語です。
いやはや、これまるでコメディです。遺産相続争い、殺人未遂と笑っちゃいけないんですが
笑ってしまいました。90歳の主治医がおいしい。

「陽だまりの詩」

SF?ちょっと手塚治虫「未来篇」ぽいですねー。まあまあ。

「SOーfar そ・ふぁー」

これ、すごく良かった!飛行機事故で、父か母かどちらかが死んだんだけど、主人公の
子供にはどっちも見えて、両親にはお互いが見えない、声も聞こえない。そんな中で、
懸命に両親の仲をつなぎとめようとする少年にうるうるです。
そして、意外などんでん返しが。乙さんの得意分野ですね。

「冷たい森の白い家」

ぐええ。これは。。。ファンタジーホラー????(ジャンル勝手に作るな)
こういうのは嫌い。グロい。いたたまれない。

「Closet」

あれ?すごい本格ミステリが急に。
平凡を絵に描いたようなストーリーと真相なんだけど、それがどこまでも乙さんらしい。
語り手はどなた?が鍵かな。

「神の言葉」

自分が念じたことが本当になってしまう能力を持ってしまった少年の苦悩の物語。
ちょっとややこしいけど、乙さん、結構漫画の影響受けてるね。

「ZOO」

表題作。恋人を殺した男が、毎晩「彼女を殺したのは誰だ!」という一人芝居をうつ、
というなんとも奇妙な話。観客いませんからねー。
展開と、主人公の心が移行していくさまは素晴らしいんだけどそのきっかけが弱かったような。

「SEVEN ROOMS」

ぎゃーー。これはすいません、嫌い。
意味も無くグロくて救いがなくて、読後感最悪。これはパス。

「落ちる飛行機の中で」

締めにふさわしい、面白い作品。
気が弱いのに運だけは強い(乗客が彼につかみかかろうとするたびに全員空き缶で転ぶ、
おもしろすぎ)少年にハイジャックされた飛行機。
その中、乗客のうちの二人の会話がすごい。
過去の傷で男性不信になった女性と、冴えない営業マンのやりとり。
これがハイジャックされた飛行機の中、という設定ってだけで、こんなに面白くなります。



以上~~(つ、疲れた……)

乙氏が苦手ではないという方、早く読みましょう。
(好きじゃない方はやっぱりこれも好きじゃないと思われます)
息抜きにはなりゃしませんが、異世界には連れて行ってくれますよ~~。


はっ、乙氏を愛するあまりこんなに長々と………。