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満願  (ねこ4.2匹)

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米澤穂信著。新潮社。

 

人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。人を殺め、静かに刑期を終えた 妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在 外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇 する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、 ミステリ短篇集の新たな傑作誕生! (紹介文引用)

 


2014年ミステリー年間ランキング3冠+第27回山本周五郎賞受賞作。

 

「夜警」
ある新人警察官の殉職。ベテラン警官はかねてからこいつは警察官には向かない奴だという印象を持っていた――。どこの世界にも、張り切って浮かれて空回りする新人というのは居そうなものだが、それが国民の命を預かる警察官だと困りものだということで。これが本当だとすればゾっとするな。プロ意識の欠片もない。あながちリアル警察に絶対居ないと言い切れないのが恐ろしいが。

 

「死人宿」
かつての恋人が働いている宿には、「死人宿」という不吉な噂が――。見つかった遺書は一体どの客のものか。誰が自殺しようとしているのかも気になるところだったが、人間は本当に変われるのか?という点も興味深かった。他人から見た自分が十数年前と変わってないって評価だったらイヤだよね。

 

「柘榴」
美しく可愛い娘たちに恵まれた女だが、男運だけは悪かった。働かない夫に業を煮やし遂に離婚を決心したが――。うーん、これは「女はいくつでも女」がテーマだろうか。目新しいものではないが、ホラーとしては秀逸。

 

「万灯」
商事会社に勤める男が派遣されたバングラデシュは、想像以上に過酷な土地だった。資源開発のためある村へ趣いた男だったが到底歓迎されるものではなく――。この1作だけで長編にして欲しいと思ったほどに完成度の高い、読み応えのある作品だった。仕事という誇りあるものの代わりに失うものを間違ってはいないか?米澤さん、海外を舞台にした作品で頭角を現して来たなあ。

 

「関守」
ライターの男は、都市伝説を集めて記事にする仕事を受けた。ある土地では、車の墜落事故が重なっているという。どうやらそこの伝説だけはホンモノらしい――。取材として食堂のおばあさんとの会話だけで進む物語。シンプルかつ定番のオチながらも読むものを惹きつける力はさすが。

 

「満願」
弁護士になった男は、ある殺人事件の弁護を引き受けた。依頼人はかつて自分が苦学生だった頃の恩人で――。単純な利欲と保身による事件のようでいて、そこに隠されていた異常に背筋がゾクっとする作品だった。そこに起こったことだけではなく、一人の女の人生として想像するから恐ろしくなる。


以上。本当にどの作品も先が気になり、面白く読めた。ここまで行くとミステリーというよりもう文学の領域だろう。文章表現は勿論語彙も豊富、それをひけらかすでもない米澤氏の作品は一歩一歩確実に力を付けている。間違いなく、去年多くの人に読まれた小説の中では1番優れた作品だろう。そこは否定しないし、'ミステリランキング3冠'の名に恥じない期待通りのものだった。

 

でも、ファンとして一言言いたい。なんだいなんだい。この作品が3冠達成なら、他に今までもっと評価されていい作品あったんちゃうんけ?