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蒲公英草紙 常野物語  (ねこ3.6匹)

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青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、未来を予知するちから…、不思議な能力を持つという常野一族。槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。待望の切なさと感動の長編。(裏表紙引用)

 

 

常野(とこの)物語シリーズ第2弾。いわゆる超能力ものファンタジーと言ってしまえば物語のイメージを損なうかもしれない。舞台は終戦前の日本で、村のお屋敷の令嬢・聡子とそこに寄り添う少女(峰子)の日々の物語。峰子たちの周りには、仏師や画家など様々な人々が行き来する。そこへ未来予知や歴史を「しまえる」能力のある常野一族が村にやって来る、という流れ。

 

語り口調の文体はとても優しく、昔の日本的だ。出てくる人々もしずしずと上品であり、静か。人を惹きつける魅力を持った聡子の運命は悲劇的だが切なさと美しさを伴う前向きなものだし、峰子に芽生えた新しい感情と経験は一生の財産になるだろう。恩田作品としては極めてまとまりがあり「内容」のある小説ではないだろうか。