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兄の殺人者/My Brother's Killer (ねこ3.8匹)

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D・М・ディヴァイン著。野中千恵子訳。創元推理文庫

 

霧の夜、弁護士事務所の共同経営者である兄オリバーから急にオフィスに呼び戻されたサイモンは、そこで兄の射殺死体を発見する。仕事でも私生活でもトラブルを抱えていたオリバーを殺したのは、一体何者か?警察の捜査に納得できず独自の調査を始めたサイモンは、兄の思わぬ秘密に直面する。英国探偵小説と人間ドラマを融合し、クリスティを感嘆させた伝説的デビュー作、復活。(裏表紙引用)

 

 

ディヴァイン4冊目~。やっとデビュー作にたどり着いた。うーん、どれを読んでも面白い作家は最初から面白いのだなと。今まで読んだ作品はすべてそれぞれミステリ的な特徴があったが、こちらはそういうものがない代わりにストーリーや人間ドラマの妙味で引っ張ってくれた。

 

まずは主人公のサイモンが、弁護士の兄に深い霧の夜呼び出される。渋々事務所へ行くと待っていたのは兄の射殺死体。この兄に殺されるに足る理由があることは想像に難くないが、サイモンはじめ、その妻や秘書、友人に至るまでが曲者ぞろいなのは参った。サイモンが一生懸命兄の殺人者を探そうとするのは兄への愛情からくるものだけではなさそうだ。あまり感情的にならない語り手のためその心の内が見えづらいのがかえって良かった。目をみはる結末よりも、人間の悲しさやいやしさ、そしてまた捨てたものじゃないな、と思わせるラストがとても粋だった。