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名探偵に薔薇を  (ねこ3.8匹)

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 怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に? 第八回鮎川哲也賞最終候補作、文庫オリジナル刊行。(紹介文引用)

 


初読みの作家さん。1998年の作品だが、再評価されているということで読んでみた。「隠れたロングセラー」「衝撃を与える驚異の二部構成」「こんな傑作ミステリを今まで知らなかったことをきっと後悔します」「※第一部で読むのを止めないでください」などなど、帯の裏表をふんだんに使って煽りまくり。

 

さて読んでみたが、江戸川乱歩風の文体、雰囲気はもとより、見立て殺人や童謡殺人という題材は、それらを好んで育った自分には大好物。作中作と言ってもよい「メルヘン小人地獄」の世界の残酷さにはもちろんうっとりする。自らを職業のそれではなく、存在としての「名探偵」と称し、閃きと理論で推理を展開させていく「天才」型の探偵、瀬川もカッコイイ。そして構成もよく出来ている。第一部、第二部とも「小人地獄」という完全犯罪向きの毒薬を扱った事件なのだが、それぞれに同じ登場人物ながら、雰囲気が違う。最初に導いた解決から二転三転する怒涛の展開も見事だった。

 

しかし申し訳ない、驚愕というほどでは。文体は決して「今まで触れたことのない」ものではないものだし、苦悩する名探偵に関しては法月綸太郎にしか見えなかった。第一部を先に読むことによって、何らかの大きな仕掛けがあるのかと思っていたが、人間関係をより深読みする役割にしかなっていなかった。登場人物がメルヘン世界の住人だと思って読めば障碍にはならないかも。動機なんて特に。

 

とは言え、こういうしっかりした本格ミステリはなかなかないと思う。読む人が読めば傑作に違いないので、気になっているという人は私ごときの感想は気にせず挑んでいただきたい。なんだかんだ言って充実した読書ではあった。