すべてが猫になる

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悪童日記/Le Grand Cahier  (ねこ4.4匹)

アゴタ・クリストフ著。早川書房

戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理―非情な現実を目にするたびに、ぼくらはそれを克明に日記にしるす。戦争が暗い影を落とすなか、ぼくらはしたたかに生き抜いていく。人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。(あらすじ引用)


ずっと読みたかったこの名作、遂に読了。
悪童日記というタイトルからしてどういうものを連想していたか?というと、まさにここにある通りのような少年達のことであろう。本書は双子を完全に1人の人格として表現しており、それぞれの名前すら分からない。中には「ぼくらのうちの1人」という一人称が使われているほどだ。彼らがノートに記述した内容という体裁となっていて章の刻み方も細かく、展開は速いし読みやすい部類であろう。また、彼らの住む場所も時代も不明瞭となっているため幻想的とさえいえるかもしれない。だが、ここに生きる逞しい少年の姿はまさにこの世が作りだした戦争が生み育てたものであることは間違いない。

彼らは実の祖母に虐げられ続けた。働かなくては食事も与えられず、実母から送られてきた衣類は巧みに隠され、身体を洗うことすらできない。そんな中、彼らはお互いを殴り合い、罵り合い、身体と精神を鍛え続ける。勉学にも励み、盗みを覚え、大人と見まごう交渉手段や言葉を操るようになる。彼らは肉親に対しても無感動になってしまった。彼らの逞しさ、したたかさが恐ろしいと感じると同時に、そうならざるを得なかった背景のほうを強烈に取り込んでしまうのがこの作品の秀逸たるところだろうか。クライマックスの、悪魔とも言うべき彼らの行動さえ潔さを残すとはつくづく才能とは恐ろしい。


さて、こちらは実は三部作らしい。面白いのかな?変にその後を知らずに名作を名作のまま留めておいたほうがいいのかはてさて。