すべてが猫になる

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交換殺人には向かない夜  (ねこ4匹)

東川篤哉著。光文社文庫

不倫調査のため、使用人を装い山奥の邸に潜入した私立探偵・鵜飼杜夫。ガールフレンドに誘われ、彼女の友人の山荘を訪れた探偵の弟子・戸村流平。寂れた商店街で起こった女性の刺殺事件の捜査をおこなう刑事たち。無関係に見えた出来事の背後で、交換殺人は密やかに進行していた……。全編にちりばめられたギャグの裏に配された鮮やかな伏線!傑作本格推理。(裏表紙引用)


私が10年前から尊敬し愛し続ける←?東川篤哉さんの鵜飼シリーズ、待望の文庫化。
なかなかこちらは評価の高い作品のようで楽しみにしていた上、大好きな鵜飼シリーズ←??ということも手伝って期待の高まる読書となった。←?


冗談はさておき(?)、現代の本格ミステリで、これほど感心し満足した作品は久しぶりだ。個人的にキャラクターに愛着がなく、作家への贔屓もない自分の言うことだからこの完成度はたいしたもの。終始イライラさせられるオヤジギャグ、女性キャラのそらぞらしい関西弁やアニメにしか居ないような男言葉の応酬に愛想笑いしつつも、これが非常に多くの伏線が仕掛けられた、レベルの高いミスリードに満ち溢れたミステリであったことで相殺する。個人的に「コイツだけは許せる」ギャグメーカー砂川警部の活躍が薄かったことも、今回はプラスに働いたようだ。東川作品でおなじみの「キャラの有り得ない心理、行動」をいかにチャラにするかはミステリとしての出来そのものにかかってくる。そんなことはずっとわかっていた。今まで、「トリックすらもギャグかよ」というイメージがあったから認めたくなかったんだ。


※以下、作品のネタバレになります。未読の方はお読みにならないで下さい。


















二つの事件の時間が実は三年ずれていたというのがまずうまい。男言葉を喋る女キャラが二人もいるのは
おかしいだろと思いながら、あからさまなヒントに気付けなかった自分が悔しい。これは東川作品の個性があるから(ふざけているだけととらえてしまう)こそ通用した手段だ。二つの市の位置が実はこんなに近かったのだというトリックにも無理がなく、時間と地理という大技を使いながらしっかりまとめあげている。クライマックスで、ここまで多くの伏線を見事回収してみせたことに感動した。ファンの方には異論もあろうが、これは先日読んだ「ここに死体を~」を越える傑作だと思う。