塔山郁著。宝島社。
那由多小学校児童毒殺事件―男子児童が、クラスメイトの男子児童を教室内で毒殺した事件。加害児童は、三日後に同じ毒により服毒自殺を遂げ、動機がはっきりとしないままに事件は幕を閉じた。そのショッキングな事件から30年後、ある人物が当時の事件関係者たちを訪ね歩き始めた。ところが、それぞれの証言や手紙などが語る事件の詳細は、微妙にズレている…。やがて、隠されていた悪意の存在が露わになり始め、思いもよらない事実と、驚愕の真実が明かされていく。『このミステリーがすごい!』大賞2009年、第7回優秀賞受賞作。(あらすじ引用)
あまりこの賞とは相性が良くない。ちょっと面白そうなタイトルと表紙だったので予約していたのだが、
「告白」(湊かなえ)が引き合いに出されている事はその後知った。しまった。元々自分はインタビュー形式の小説には当たり外れが大きい傾向があるのだ。しかも「このミス大賞」だとも知らなかったから、
手元に来てから「うわ~、ケータイ小説みたいな文章だったらどうしよ~」と怯えてしまった。
が、文章に関しても構成に関しても、普通に読めるし人物造形にひっかかる点もない。ここは意見が分かれるところだろうが、登場人物の年齢と精神面の齟齬についてはあまり意識しなかったのだ。あとは物語としてどうかだが、中盤を過ぎるまではまずまずで、回答者がめまぐるしく変わって飽きさせず謎の氷解も段階的で面白いと言っていい。実際かなりの分量を過ぎるまでは、「これは優秀賞じゃなくて大賞で良かったんじゃないか?」と思っていたぐらいだ。
雲行きが怪しくなって来たのは後半。毒物の混入方法は普通だが、毒の種類についての明確な理由に素晴らしい点があったように思う。インタビュアーの冷静さと犯人の逼迫した感情の噴出がまた効果的。しかし、動機については期待ハズレとしか言いようがない。リアリティを突き詰めるのでなく、この年代を描くからこそ選んだ動機だとは思うが、それゆえの異常さを描くにはインパクトに欠ける、その時点でそもそもミステリとしての意外性には不向きだ。とってつけたようなエピローグも不要だろう。
作者が「告白」を意識したのかどうかはわからない。が、これは比べられる運命にある作品だ。そもそも、「告白」があれほど売れたのはインタビュー形式が凄いという点ではなく、教師という立場の人間が語り手であった事が無関係ではない。つまり本書のような「過去の清算」では立ち向かえない。危機感がそもそも違うのだ。語り手がギリギリの崖っぷちに居なければ緊迫感に差が出るのもいたしかたないだろう。
(359P/読書所要時間3:00)