E・C・ベントリー著。創元推理文庫。
アメリカ財界の大立者マンダースンが、別邸で頭を撃たれ、即死する。ウォール街の投機市場は旋風のような経済恐慌にみまわれ、大混乱をきたした。事件の最重要容疑者は美貌の未亡人メイベルだった。敏腕な新聞記者で優れた画家であるトレントは、真相の究明に乗り出す。本書は、果然、前世紀の探偵小説から大きく前進し、現代推理小説の黎明を告げる記念碑的な名作となった!(あらすじ引用)
こりゃ面白いわ~。
出だしがいかにも「はい、これが古典です」ばりに読みづらかったからしばらく放置していたのだが。以前、「自分はロマンスミステリが合う」=「ならトレントも合うのかも」と予想していた通り、好み路線まっしぐらの名作だった。
まず、これが1913年の作品というのが凄いね。クリスティ、クイーンより前なのよ。トリックや論理がその上を行っているという意味ではなくて、まだいくらでもミステリとしての発想の余地がある時代に既にひねくれているっていうのが(笑)。スタンスで言えば、バークリーに最も近い。そもそも、トレントものはコレしかないらしいのに「最後の事件」だもの^^;コレしか描く気はなかったみたいね。麻耶さんのデビュー作はここから持って来た発想なのかいな?
ロマンス・ミステリと言っても、基本的には本格探偵小説の王道を行っている感じ。途中で今までの捜査や推理が明確に提示されるし、そのあたり含めて「読みやすいヴァン・ダイン」と言ってもいいかもしれない。トレントは、ファイロ・ヴァンスをもっとカッコ悪く人間臭くした感じ。その上、中盤以降のトレントの熱愛シーンで体が火照った後は、まさかの真相のひっくり返し。そこからラスト、さらに人を喰った展開になるのが本書が広く長く評価され続けているポイントか。
本書は探偵小説を揶揄したものだという解説に納得しつつも、それでもロマンス・ミステリとして楽しみたい読者にも適しているんじゃないかと思う。1度でいいから男性にここまで言われてみたいぜ。
(309P/読書所要時間4:00)