恒川光太郎著。角川書店。
島に一本しかない紫焔樹。森の奥の聖域に入ることを許されたユナは、かつて〈果樹の巫女〉と呼ばれた少女だった……。呪術的な南洋の島の世界を、自由な語りで高らかに飛翔する、新たな神話的物語の誕生! (紹介文引用)
待ちに待った恒川さんの新刊。
表紙もタイトルも好みだったので楽しみにしておりました。このところ好みから少しハズれて来ていたので、幻想的でホラー色の復活した本書に拍手喝采~。
では感想を~。
「南の子供が夜いくところ」
一家心中を考えていた夫婦が、湘南の海水浴場の露店で出会ったヒッピー風の異国女性。彼女に出会ってから、一家の運命は。。。
いきなり母親の人物造形が酷かったので、どうなることかと思った。見知らぬ島に預けられた少年と、呪術師で120歳の女性という設定は良かったのだが唐突に終わりなんだったのかわけがわからん^^;こういう作品って、感想を描けば描くだけ嘘になりそう。
「紫焔樹の島」
ユナ視点のお話。まだ前作の少年・タカシと出会う前だね。島に漂流してきた白人男性と、島民との交流が描かれる。神様?のトイトイ様の存在とか、食べてはいけない果実とか色々と面白かった。文明が切り開かれてゆくのかと思ったら、この展開にドキドキ。
「十字路のピンクの廟」
手記とトロンバス島民へのインタビューで綴られたお話。女学生達と、呪われた少年とのやりとりが面白かったけど、、ちょっとこの作品、浮いてる?^^;
「雲の眠る海」
ペライア酋長の甥であるシシマデウさんが主人公。ペライアから二十キロ離れたコラ島との戦争を描いたもの。うーん、よくわかんないなー^^;;名前だけはインパクトあったけど。
「蛸漁師」
セントマリー岬の崖の下で見つかった男の死体。その父親が語り手となって、息子の死の真相を探ってゆく。ミステリとホラーが合体したような作品で、なかなか好み。ヤニューという悪魔の存在がキーとなっている。蛸が気持ち悪いねー。
「まどろみのティユルさん」
野原で目覚めた男。気がつくと男は自分が首から下の大部分が土に埋まっていることに驚く。。
タカシと男のやり取りが結構好き。神秘的だけどどこかまがいものっぽくていい感じ。終わり方も幻想的でキレがいいね。
「夜の果樹園」
第一話のある人物が、意外なところに登場。見知らぬ異国の島で途方に暮れたその男が巻き込まれた恐怖。。フルーツ人間というのが面白いんですけど(野菜も少々)^^;フルーツと思っていてもちょっとグロいね。全編通して「めでたしめでたし」というのがないので、ここで幕引きという感じが出てる。
ちょっと「あれ?」と思った作品もあったけど、島の不可思議な風習や常識が世界を作っていたし、自然の雰囲気がたっぷり出ていたので全体的にはとても好みだった。まあ、こういう幻想文学はあれこれ分析するよりも映像を思い浮かべて消化出来ればOKでしょう。物語が終わったつもりでいるんじゃなくて、まだどこかで続いているんだと思えたらそこで初めて自分だけの”トロンバス島”が生まれるんじゃないかな。
(285P/読書所要時間2:00)