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最上階の殺人/Top Storey Murder  (ねこ4匹)

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アントニイ・バークリー著。新樹社。

最上階のフラットに住む女性が殺され、室内が荒らされた。裏庭に面した窓からはロープがぶら下がっていた。スコットランドヤードの捜査に同行したロジャー・シェリンガムは、警察の断定に数々の疑問を持ち独自の調査を開始する。 (あらすじ引用)


アントニイ・バークリー8冊目は、後期の傑作と名高いロジャー・シェリンガムシリーズ。ここに来てゆきあや絶賛の「ジャンピング・ジェニイ」や「エンジェル家の殺人(ロジャー・スカーレット)」の文庫化が決定し、ミステリの神様の存在を身近に感じている昨今である^^

本書は「地下室の殺人」と連作になっているが、直接的なストーリーは関係がないのでご安心を。
特徴としてはまず、終始一貫ロジャー・シェリンガムが語り手となっている点。はじめはシェリンガムが出ばるほどの事件ではないと思われた老女絞殺事件だが、彼がふと目にしたレンジの位置や煙草の消し跡、ロープの摩擦痕や被害者の服装に疑問が生じた事により深入りする事となる。容疑者をマンションの住人に絞る論理や脱出経路の言及は今までにない冴えを見せるシェリンガム。後は彼らしく、心理的に一人一人の容疑者の犯行の機会と”人柄”によって消去して行く。動機を疎かにしない点は彼にしては上出来だと言っていいだろう。

しかし手づまりになると物的証拠を検討し始める点は今までと変わらず。バークリーのこういう所が”心意気”では評価されても”出来”としては完成度が低い理由(「第二の銃声」以外)なんだよな、と正直思っていたが、本書では見事そのハードルを越えたと言わざるを得ないだろう。
間違えまくるシェリンガムの魅力、ミステリとしての完成度、お話としての面白さ。後の二つはともかく、「間違える探偵」と「ミステリの良さ」のコラボ(笑)は不可能だと思っていた。本書ではその撞着もすんなりとクリアしている。出ずっぱりでも息切れしないコメディアンと、そのアンチヒーローに立ちはだかった美形秘書の対決(笑)が、本来退屈であるはずの独り語り推理劇に彩りを添え、どこにもない異例の結末が誕生した。

バークリーファンには自信を持ってお薦めしたい。が、これからバークリーを読もうという向きにはふさわしくないかもしれない。バークリーはこういう作家だという前知識なしに読むと激怒する可能性も(^^;)。バークリーはみんなでフォローして褒め合っていかなきゃいけない作家だと言ったらさすがに怒られるかもしれないが。

                             (325P/読書所要時間4:00)