すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

安楽椅子探偵アーチー  (ねこ3.6匹)

イメージ 1

松尾由美著。創元推理文庫

※ワタクシが本書を読む以前からこの奇抜な設定を前知識として知っており、それが読みたいと思った動機に繋がった事、あらすじや紹介文、多くの書評等で”アーチー”の正体を明かされている事実を鑑みて、さらに自分のネタバレに関する定義に反していないという考えから記事ではその点を伏せておりません。あるお友達がこの部分を巧妙に隠して記事にされていたので、ウチと共通のお友達が多い事から彼女の考えを尊重したくこの文章を警告として掲載しました。本書未読の方がご自分の意志で記事に目を通されても問題ありませんが、ご理解いただければ幸いです。




(あらすじ)
小学校5年生の及川衛は、自分の誕生祝いを買いに行く途中で、アンティークショップの店先にあった安楽椅子に心惹かれる。思い切って購入し、自宅へ運んでみると、なんとその椅子は口をきき、不思議な能力をもっていた。アーチーと名付けられた椅子は、シャーロック・ホームズばりの推理をする、正真正銘の安楽椅子探偵だったのだ。松尾由美が贈る、ファンタジー溢れる連作短編集。(裏表紙引用)



無生物が探偵役になるという一風(いや、二風三風ぐらい)変わった設定のミステリー。
表紙とタイトルに惹かれ、評判も悪くなさそうなのでと買ったはいいが積読状態。やっとこさ読了となりました。色んな意味でたくさん言いたい事がある作品だった気がします。
設定のアイデアは大成功していると思う。衛がアーチーを手に入れる経緯はドラマティックだし、アーチーの人となり(椅子となり?^^;)や、上海より日本へ渡って来たエピソード等々、勿体ないくらい奥行きのある設定です。アーチーのキャラクターが最高ですね。年齢的には老人と言って良い話し方(実際何百年と生きているぽいし)、なんとなく我が儘で気まぐれでお世辞に弱く、情に厚くて昼寝が趣味。臆病と思えば自信家で、お茶目な面もある。
対する小学生の衛やパートナーの芙沙ちゃんはプチ夫婦のように相性がいい。おとなしく好奇心だけは旺盛な衛と、行動力と勇気を合わせ持った元気な芙沙ちゃん。このコンビあってこその発見や結果が多いですね。この点だけをピックアップすれば正当派のジュブナイルミステリと言ってもいい。

ただ、事件そのものはそれぞれ惹かれにくかった。日常の謎という趣きのものもあれば、どっこい政治が絡んだ壮大なネタや、大人でないと理解しにくい機微を扱ったものも目立つ。多少強引に感じる急ぎ足の展開も気になるところ。真相そのもののインパクトと、推理する過程の退屈さが釣り合っていない印象。

連作短編集としてトータルで評価するならば、アーチーと彼の思い出の人物、少年少女の触れ合いがとても温かく、完成度は高いと思う。個人的にはアーチーのキャラクターを気に入るか気に入らないかが重要だった気がするのだがどうだろう。