すべてが猫になる

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第18位 『13階段』 著/高野和明

この企画がもし20位からであったなら「ずいぶん下」、30位だったら「わりと上」にランクイン
した感じになるなあ、と一人で想像中。
この作品は自分にとって良過ぎ面白過ぎて、「早く再読したい」がために下位に入れちまおう、という
誘惑があっても見事打ち勝ちました。おかえり、高野さん。
初読時はあまりの興奮と出会えた喜びがあった割に、というべきか当然と言うべきか、内容については
細かなところまで頭に入っていた稀有な作品。最終章だけは再読でも忘れていた「意外な」事実が
判明し、鳥頭には二度おいしい特権^^。

本書は第47回江戸川乱歩賞受賞作。審査員が満場一致で決定、宮部みゆき氏も絶賛。
このころは、まだ自分も「江戸川乱歩賞ってすごい賞だ」と思っていたなあ。でもこの作品まで
だったなあ、と自分の中で「13階段以降、13階段以前」という括りを楽しんでしまいました。
これ以後、「天使のナイフ」も話題になりましたが、ここまでいいとは思いませんでしたしね。


死刑制度と冤罪問題を扱った重厚なテーマの作品です。テーマの重さを、文章の平易さが
救っているという感じがあり、それも魅力のひとつ。
バーでのささいな喧嘩で、一人の青年の命を奪ってしまった三上純一傷害致死が適用され、
二年後に出所。彼に殺意がなかった事と、先に因縁をつけたのが相手側だった事が明暗を
分けた。出所後、社会復帰を目指す彼の元に刑務官の南郷が接触する。被害者側への
賠償金に苦しむ三上は、南郷の仕事を手伝う事を決意。成功報酬は一千万円。それは、
強盗殺人事件で死刑囚となった樹原という青年の冤罪を晴らす、というものだった。。。



緻密な構成と、中盤からの怒濤の展開に読む手が止まらない。
南郷、三上、樹原、数ある登場人物はお互いに信頼するに足る人物かどうか、それは読者と
同じくらい彼らにも分からないはずだった。信頼しなくては成り立たない人間関係と
その役割に感動もし、次々出て来る新しい事実に葛藤し、死刑制度のおかしさに愕然とし、
同じく更生しない凶悪犯を憎み、どんどん物語に引き込まれる。
人間が人間を裁くこと。どんなにやってもなくならない凶悪犯罪。刑務所は懲罰の場であるか
人格形成のための場であるか、日本は前者である事が多いという。再犯率40%以上という
信じられない統計がすべてを物語っているのか。
三上の立場になれば、誰でも死刑囚になる可能性があるというのか。
「自分なら有り得ない」という考えを持つ事は危険でもあるし、現実社会で「正義を貫く事」が
どれだけ難しいかが問題だと思う。正義であるはずの裁判所ですらこうだというのだから。

今の時点で言うなら、東野氏の『手紙』の方が自分の生活により近い描写だったかもしれない。
けれど、自分はこちらを選んだ。
テーマ自体は重苦しいが、高野さんの筆力が素晴らしく、抵抗がない。小説として、要所要所で
どう落とせば読者が納得するか、を知っている書き方な気がするのだ。


残念に思うのは、本書と次作『グレイヴディッガー』以降、高野氏の評判がふるわないように
感じること。(『グレイヴ~』は個人的に全く受け付けなかった^^;)これ以後、
『K・Nの悲劇』(これも全くダメだった^^;;)、『幽霊人命救助隊』(評判は良く
なかったが自分的には合格)と読んで来たが、新刊を出されていても日に日に書評が
減っていっている気がする。新作『6時間後に~』に至っては、レビューを見た事がない。
見切りをつけられてしまうほど、力をなくしてしまった作家さんだとはとても思えないのだが。