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第22位 『翼ある闇』 著/麻耶雄嵩

やっとゆきあやランキングらしくなって来ました。好きな人は嵌まったら抜けられない、嫌いな人は
罵詈雑言、新本格第2世代の問題児・麻耶雄嵩氏のデビュー作の登場です!(ここで拍手よろしく)

実は本書、ランキングに入れようかどうしようか最後まで悩みました。
再読っつったって、もう4、5回は読んでいるほどのお気に入り。昔の本を持っていなかった時代なら
いざ知らず、新本格に嵌まってからの自分は再読している本なんて両手の指の数ぐらいしか
ありませんからね。そんな中、麻耶氏は唯一何度も読んでいる作家と言えましょう。



舞台は京都近郊。そこに建つヨーロッパ古城を思わせる「蒼鴉城」に招かれた探偵・木更津悠也と
友人の香月は、すでに惨劇のただ中にいた。次々と起こる不可解な密室殺人と首無し死体。
木更津の推理は一度すべてを看破したかのように見えたが。。。



でも、また読みましたよ^^v
あまり読みすぎると、初読の衝撃や当時の感想が薄れて行くもんですが、ここはひとつ初心に還って
記事を書いてみたいと思います。
本書を読み終わった後、興奮のあまり職場で立ち上がって本を片手にうろうろしてしまった、という
のは有名なエピソードですが、本書が自分の初・麻耶作品となります。
実は、綾辻行人以降、自分は「これだ!」と言える作家になかなか出会えませんでした。
とにかく読むものは「ロシア」などと銘打っていてもどこまでも雰囲気がジャパン!なのです。


そこに颯爽と現れたのがこの麻耶雄嵩なのです。
どう読んでも日本人の手に寄って描かれているのに、印象では日本でも西洋でもない。
どこまでも病的にヨーロッパ中世の雰囲気に浸りながら、うっかりと
松尾芭蕉の句でも詠みたくなりそうな底辺を流れるオリエンタルな脈動。
本格ミステリーの定番のプロットを使用しつつ、真の探偵役が第二部から登場するなどという
この違和感。さらに、サブタイトルの「メルカトル鮎最後の事件」という人を喰った狙い。
見立て殺人の「遊び心」とトリックの「論理を命とする本格推理ではあってはならない」
”奇跡”。

本書は島田荘司氏、綾辻行人氏、法月綸太郎氏の絶賛を受けた作品。
これは個人的な見解なのですが、一昨年の12月に読んだ「暗黒館の殺人」で、自分は
本書を彷彿とさせるものをいくつでも連想しました。綾辻氏は越えられなかったのではないか、と
感じた事を告白します。彼は麻耶氏に影響を与えたはずの作家でした。



「はみ出したもの」ならば計算されたものはつまらない。
私はいつでも文章から「作家」を読む。そこに文章の巧い下手という問題が入る余地はない。
その若い身体から発散される夢物語や人が鼻白むアイデアを、不器用な手から編み出される、
勇気あるそのタブーを。麻耶雄嵩から贈られる世界の中だけで、私は生きる事が出来ると思う。