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第28位 『僧正殺人事件』 著/ヴァン・ダイン

海外古典は緊張するなあ。。

と言うわけで、第28位は1929年に書かれた古き良きアメリカ作家の代表作です。
創元推理文庫より全12作が発売されており、これは今でもたいていの大型書店で入手出来るかと
思われます。どの作品でも一定以上の本格ミステリの面白さは堪能出来ると個人的には思ってますが、
彼の代表作と言えばやはり本書『僧正殺人事件』と『グリーン家殺人事件』でしょう。海外ものが
苦手な方でもタイトルくらいはご存知なのでは。さらにまた個人的には『グリーン家~』の方が
読み物としてとっつきやすく、今の年代の本格ファンにも受け入れられやすいんじゃないかと
思います。
でも、これはおいらのオールタイムベスト。12作で一番好きで、ヴァン・ダインの面白さが
顕著に出ている作品は本書でございます。


ヴァン・ダインと言えば「ノックスの十戒」をさらに発展させて「二十則」なるものを大っぴらに
掲げた作家として有名ですが、クリスティ、クイーン、カーなどと比べると周囲ではあまり人気が
ないように感じるのが淋しいところ。正直その「二十則」は次々サプライズを狙ったミステリ作家に
破られ尽くしている感があり、ええ、それはやはり時代。仕方がないし、当然の流れでしょう。
余りにも「本格の中の本格」というイメージからか、ファイロ・ヴァンスのキャラクターが
ポアロやホームズと比べて一般に浸透しなかったためか(当時のアメさんは知りませんが)
「もの凄くカタい」「読みにくい」「改行がない」「今さら使い古されたトリックの原典を
読んでもなあ」という風潮を感じます。

全部否定出来ませんし、実際読むのに体力と精神力を奪われてしまうのは当のおいらの方なんですが。


今述べた条件が揃ったものが「面白くない本だ」という事を証明しているわけではないのです。
この「僧正殺人事件」には坊さんは出て来ません!ほら、面白いでしょ?^^;コケるでしょ?
簡単に梗概を説明しますと、『見立て殺人』(マザーグース)ものでございます。ある女性に
想いを寄せた二人の男性。その対立する二人が女性の家を訪ねて来た日に、一人の男性が
弓術場で弓で心臓を射抜かれて殺されてしまう。そして警察に届いた犯人からの手紙には
なぜか「僧正」の署名が!……てな感じ。
この作品がなければ横溝正史の『悪魔の手毬唄』は生まれなかった、とまで言います。
マザー・グースの子守唄に合わせて次々と殺されていく被害者たち。
これが見事なほどの「唄どおり」の有様で事件が続々と起こって行くのです。

ヴァンスの推理法は、今では新本格ですらも見かけなくなった「人間観察」のみに尽きます。
彼の洞察力、人間を見る眼はいつも確かで、それでも「論理的解明」「証拠」という点では
不確かという徹底的な個性を持っています。この時代の小説だから通用する手法です。
動機の面でもなぜか「数学論」などを持ち出すあたりなどは森博嗣が連想されますね。


わたしとしては、この愛すべき本格バカ、とでも言いましょうか。
本格ミステリの原典、ヴァン・ダインに感じるのはそのユーモアの原典です。
ポーカーで犯人をあぶり出し、博物館にて「犯人を指摘しすぎる死体」と遭遇し、
プールからドラゴンの足跡が発見されたと思ったら、水を飲んでばたばたと死ぬ被害者たち。

ヴァン・ダインを読んでいたらカッコイイぐらいの気持ちで読んでみて。

お薦めはここで書いた二冊と、「ベンスン殺人事件」「カナリヤ殺人事件」が人気。
ゆきあやのお気に入りは、全然人気のない「ガーデン殺人事件」と「カブト虫殺人事件」です。
今出ている版はそんなに読みにくくないはず。。。